「繰り返し」が教えてくれる
これまでおなかの中の赤ちゃんが外界の音や言葉のリズムを感じ取っている可能性や、産後すぐの寝てばかりの赤ちゃんが、親の声や反応を感じ取り、応答を始めていることにも触れました。
胎児のときから、忙しく世界を観察している赤ちゃん。そんな赤ちゃんが学んでいるのは、人との関わりだけではありません。周りで起きていることの「繰り返し」や「規則」を見つける力があることもわかっています。
たとえば、大人が赤ちゃんに話しかけるとき、同じ言葉を何度も繰り返します。おむつを替えながら「きれい、きれい」。なにかあったら「大丈夫、大丈夫」。赤ちゃんに言葉を教えようとしているわけではないのに、気がつけば、同じ言葉を何度も聞かせています。こうした「繰り返し」が、実は赤ちゃんの大切な手がかりです。
赤ちゃんは、耳に入ってくる音をただ聞き流しているわけではありません。「この音とこの音は一緒に出てくることが多いな」というふうに、音の並び方や出てくる頻度を手がかりに、少しずつまとまりを見つけています。
これを「統計学習」と呼びます。何度も聞いているうちに、「これはひとまとまり」と、赤ちゃん自身が見つけていくのです。だれかが、ここからここまでが一つの言葉だと教えてくれなくても、周りの音から規則を見つけています。
教えているようで、教えられている
大人は、赤ちゃんになにかを教えようとするとき、「説明しなくては」と思いがちです。でも実際には、毎日の意識しない繰り返しそのものが、赤ちゃんにとっては学びの材料になっています。同じ歌を歌う。同じ絵本を読む。毎日「おはよう」と声をかける。大人には、昨日も今日も同じこと。産後の子育ては、同じパターンが続き、とても忙しいのに発展性がないような気がして、漠然とした不安に結びつくこともあります。でも赤ちゃんにとっては、「昨日も聞いた音」「また同じことが起きた」という経験の積み重なりが大切です。もちろん言葉を覚えるのは統計学習だけの結果ではありません。周囲の人の声や表情、実際の体験など、さまざまな情報が組み合わさって発達していきます。それでも、意識して教えられる前から、赤ちゃん自身が情報を集め、比べて、「こうなのかな?」と世界の仕組みを探っているのです。そう考えると、毎日の繰り返しも、違って見えてきませんか。同じ絵本を「またこれ?」と思いながら読むことも、同じ歌を何度も歌うことも、赤ちゃんにとっては世界を理解するための大切な時間です。
そして面白いのは、大人も、赤ちゃんと暮らすなかで、変わっていくという点です。話しかける声のトーンが高くなるのは有名ですが、いつの間にか、赤ちゃんに合わせた話し方も身につけています。子どもとの関わりによって脳が変化するような、器質的な変化もありますが、赤ちゃんに同じ言葉を何度も話しかけるような変化も、親が思っている以上に意味があるようです。
体験格差がいわれる今、小さいころから新しい経験をどんどんさせてあげたい、と考えることもあるかと思います。でも「また同じことを言ってる」と思うくらいで、ちょうどいいんです。新しいものをどんどん与えても、子どもの処理は追いつきません。赤ちゃんは今日も、繰り返しのなかから、世界のルールを一つずつ見つけ、同時に親も、少しずつ変わっているのです。
