朝、目が覚めた瞬間から、もう疲れている。しっかり寝たはずなのに、体が重い。特別つらいことがあったわけでもないのに、涙が出そうになる。そうおっしゃる患者さんが毎日受診されます。そんな患者さんに「あなたの目の前に、生まれたての赤ちゃんがいるところを想像してみてください」とお話ししています。
赤ちゃんは、言葉を話せません。だから私たちは、様子を観察し続けます。ミルクは足りているかな? おむつは汚れていないかな? 寒すぎないかな? 暑すぎないかな? どこか不快なところはないかな? 全神経を赤ちゃんに向けて世話をすると思います。この「気にかけ続けること」が、子どもへの愛の一つの形です。
普段、あなたは自分自身に、どんなことをしているでしょうか? お腹が空いてもやるべきことを優先する。疲れても、切りが良いところまではとがんばる。悲しくても涙をこらえる。がんばっている人ほど、こうなりがちです。
発達心理学では、赤ちゃんのサインに気づいてすぐ応えてあげる関わり(応答性)が「大切にされている」という安心感を育てることがわかっています。有名な「無表情実験」では、お母さんがほんの数分間、無表情になって反応をやめるだけで、赤ちゃんは動揺し泣き出しました。応えてもらえないことは、それ自体が強いストレスなのです。
大人になった私たちの心も、同じ仕組みで動いています。自分の気持ちを無視し続けるのは、インナーチャイルド(傷ついた心)に無表情を向け続けるようなものです。「なんとなくずっと機嫌が悪い」のは、そのせいかもしれません。
また、脳科学の研究では、他人からの思いやりだけでなく、自分が自分に向ける思いやりでも、安心をつくる脳の仕組み(オキシトシンなどが関わる、ケアと絆のシステム)が働くと考えられています。つまり、あなたは自分自身の養育者になれるということです。
やり方は、赤ちゃんの世話と同じです。1日に何度も「今、どんな気分?」と聞いてあげてください。出てきた気持ちがどんなにネガティブでも「そうだよね、わかるよ」と、心のなかで認めて共感してあげましょう。「面倒くさい」と思ったら「そうだよね、面倒くさいよね」。「休みたい」と感じたら「そうだよね、休みたいよね」。思ったことへのジャッジは要りません。たとえば月曜の朝に「あー、行きたくないな」と思ったら「行きたくないなんてダメだ」ではなく、「そうだよね、行きたくないよね。先週あんなにがんばったんだもんね」とその気持ちを認めてあげましょう。「わかるよ」のひと言で、気持ちが報われることがあります。最初は棒読みでもいいと思います。
それから、これは僕自身の告白です。長いあいだ無視され続けた心は、すねてしまっていることがあります。僕も、自分への愛情が大切だと理屈ではわかっていて、実践もしてみたのに、なんの反応も返してくれない時期がありました。「やっぱり効かないんだ」と諦めて、続けられなかった時期もありました。でも、考えてみれば当たり前です。ずっと放っておかれた子が、急に優しくされても、すぐ素直に甘えられるはずがありません。すねた心が「本当に見ていてくれるの?」と信じてくれるまでには、時間がかかるのだと気づきました。だから、効果を感じられない人こそ、気長に声をかけ続けてみてください。愛は一度の声かけでは伝わりません。毎日の見守りの積み重ねが大事だと思います。
赤ちゃんが泣きやまない日があるように、うまくいかない日もあります。それでも観察と声かけを続けるうちに、ある日気づくときがくるはずです。「私は、私に気にかけてもらえている」それこそが、自分で自分を愛しているという実感です。あなた自身があなたの大切なインナーチャイルドを育ててあげましょう。
