波動と呼ばれるものを扱っていると、世の中の成り立ち、とくにスピリチュアルとの関連について問われることがよくあります。最近は量子力学での素粒子の奇妙な動きとスピリチュアルを関連づけて説明している書籍、動画が多いように思います。
残念ながら、特に日本ではプロの学者はこのようなあやふやな世界にコメントすることを「くだらない」と避ける傾向があります。その結果、誤解はどんどん転載され、おかしな話になっていることが多いのです。
ここで量子力学の基礎中の基礎を見ていき、あまりに初歩的な誤解を解いていきたいと思います。量子力学とは物質の研究ではありません。物質を構成する様子を研究しますが、物質と異なる動きを研究します。物質のもっとも単純な形は水素原子として知られています。原子核がひとつと電子でできています。最初に原子というものが発見されたとき、学者は図1のように考えていました。
原子核の周りを電子が人工衛星のように回っています。1913年ごろに提唱されましたが、今ではもう古いモデルです。いまだにこの図を信じている人はたくさんいて「原子の中は空間でスカスカだ」「そこにはエーテルがつまっている」などという説を唱えていますが、誤りです。現在、学者は図2のように考えています。電子の位置は特定できず、原子核の周囲に存在しますが、確率でしか場所を語れないとしているのです。水素の原子核は陽子1個からできています。
ここに出てきた電子、陽子を総称して「素粒子」と呼んでいるのです。 したがって、電子を除き、素粒子単体では物質世界では存在しません。
さて、その電子の振る舞いが奇妙であるため、スピリチュアルの世界に証明として持ち出されます。たとえば、下の図のような二重スリット実験というものがあります。電子を左の電子銃からひとつずつスリットに向かって打ち出します。連続して打ち出していると、多少のばらつきがあるため干渉縞を作り出します。(電子の波動性)
ところが電子の一つひとつがどこに到達するか測定する装置をつけると、途端にひとつの場所にしか到達しなくなります。(電子の粒子性)
波動性は電波として利用され、粒子性は光電効果などに現れ光電管のような装置で利用されています。
ここで「測定する装置をつける」という点を拡大解釈して、「観測者がいる」と書き換え、だから「意識があると波動性が収束する」としている表現をよく見ます。それを「引き寄せの法則」で意識を向けると物理世界が変化する、とまで展開します。
残念ながら、「測定する装置」をだれかが見ていなくても、電子は粒子的振る舞いをします。
このように量子力学の解釈を誤って使っている例は多いのです。しかし、学問の最先端を説明するときに、厳密さを適度に省略してわかりやすく解説した本も少ないのが現状です。
二重スリット実験