前号では、旧優生保護法に基づき強制的に不妊手術を受けさせられた方に対する日本で初めての補償制度について、ご紹介しました。
具体的には、平成31年4月に制定された、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下、「一時金支給法」といいます)」について、ご紹介しました。
この法律は、被害を受けた方に対して320万円の一時金を支給することを定めた点で意義がありましたが、他方で、一時金の金額が低額過ぎることや、旧優生保護法が憲法違反であると明記されていないことなど、多くの問題が指摘されていました。
最高裁判決と補償法の制定
令和6年7月3日、最高裁判所において、旧優生保護法が憲法違反であることを指摘するとともに、被害を受けた方全員の救済を可能とする法理を採用した画期的な判決が出されました。
そして、この最高裁判決を経て、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する補償金等の支給に関する法律(以下、「補償法」といいます)」が成立し、令和7年1月17日に施行されました。
以下、補償法の内容を、一時金支給法の内容と比較しながら、ご紹介します。
補償法の前文
まず、前提となる理念の点ですが、一時金支給法には、旧優生保護法の規定が憲法違反であることが明記されていませんでしたが、補償法においては、その前文で、旧優生保護法の規定が憲法に違反することが明記されました。
また、一時金支給法では、旧優生保護法に基づく強制的な不妊手術について、国に賠償責任があることが前提とされていませんでしたが、補償法では、前文において、国に賠償責任のあることが前提とされ、さらには国が誤った施策を進めたことにつき心から深く謝罪する旨が明記されました。
補償法の具体的内容
次に、具体的な内容の面ですが、まず、優生手術を受けた方に対して、一時金支給法に基づき支給される一時金の金額が320万円だったのに対し、補償法に基づく補償金の金額は、1500万円とされました。そして、この補償金と一時金は、法的性質が異なるものであることから、補償法において、その両方を請求できることとされました。すなわち、優生手術を受けた方は、合計1820万円の請求をすることができることになりました。
また、一時金支給法においては、優生手術を受けた当事者以外の方は請求ができませんでしたが、補償法においては、優生手術を受けた方の配偶者の方も、固有の権利として、補償金の請求ができることになりました。配偶者の方に対する補償金の金額は、500万円とされました。ただし、配偶者の方は、一時金を請求することはできません。
さらに、一時金の請求権は、優生手術を受けた当事者の方に限定されており、当事者の方が亡くなった場合には、その権利が相続されず、遺族の方が請求することもできませんでしたが、補償法に基づく補償金は、手術を受けた当事者の方や配偶者の方が亡くなった場合、その遺族の方が請求できることになりました。請求できる遺族の範囲及び順位については、補償法に規定されています。
そして、一時金支給法においては、優生思想に基づきなされた人工妊娠中絶の被害者の方は一時金を請求できませんでしたが、補償法においては、人工妊娠中絶の被害者の方も、200万円の一時金を請求できることになりました。