日本弁護士連合会(日弁連)は、毎年1回、人権擁護大会・シンポジウムを開催しています。
シンポジウムでは、毎年、重要な人権課題がテーマとされます。例えば、昨年度は、生存権の保障の問題、刑事裁判における法廷内の手錠・腰縄の問題、再生可能エネルギーの問題が取り上げられました。
今年度の人権擁護大会・シンポジウムは、12月に長崎市で開催されます。そして、今年度のシンポジウムのテーマのひとつが、インクルーシブ教育です。
そこで、今月のコラムでは、やや専門的になりますが、インクルーシブ教育について取り上げたいと思います。
インクルーシブ教育とは
さて、そもそも「インクルーシブ教育」とはどのような教育のことでしょうか。
インクルーシブ教育の定義については、専門家の間でも多様な見解があるため、現時点で、この問いに対して明確に回答することはできませんが、一般には、障害のある子どもなど特別な教育ニーズのある子どもに対する学習権の保障や、そうした子どもに対する包摂的な教育の実現という文脈で語られることが多いと思われます。
サラマンカ宣言
法的に見ると、インクルーシブ教育は、子どもの権利の分野というより、主に障害者の権利の分野で論じられ、発展してきたという経緯があります。
この関係で、しばしば引用されるのが、1994年にスペインのサラマンカで開催された「特別なニーズ教育に関する世界会議」において採択された「サラマンカ宣言」です。サラマンカ宣言では、障害のある子どもを含めた万人のための教育が提唱されました。
具体的には、その冒頭で、以下のような宣言がなされています(国立特別支援教育総合研究所の翻訳によります)。
・すべての子どもは誰であれ、教育を受ける基本的権利をもち、また、受容できる学習レベルに到達し、かつ維持する機会が与えられなければならず、
・すべての子どもは、ユニークな特性、関心、能力および学習のニーズをもっており、
・教育システムはきわめて多様なこうした特性やニーズを考慮にいれて計画・立案され、教育計画が実施されなければならず、
・特別な教育的ニーズをもつ子どもたちは、彼らのニーズに合致できる児童中心の教育学の枠内で調整する、通常の学校にアクセスしなければならず、
・このインクルーシブ志向をもつ通常の学校こそ、差別的態度と戦い、すべての人を喜んで受け入れる地域社会を作り上げ、インクルーシブ社会を築き上げ、万人のための教育を達成する最も効果的な手段であり、さらにそれらは、大多数の子どもたちに効果的な教育を提供し、全教育システムの効率を高め、ついには費用対効果の高いものとする。
この宣言においては、まず、障害のある子どもに限らず、すべての子どもが、ユニークな特性、関心、能力及び教育的ニーズを持つことが述べられています。
また、特別な教育的ニーズをもつ子どもたちが、そうしたニーズに応答できる通常の学校にアクセスできるようにすることが述べられています。
そして、インクルーシブな志向をもつ通常の学校こそが、万人のための教育を達成するための最も効果的な手段であるとされています。
さて、このサラマンカ宣言以降、インクルーシブ教育は、どのように発展したでしょうか。その点については、次回以降、ご紹介したいと思います。