前号では、旧優生保護法に基づき強制的に不妊手術を受けさせられた方などに対する補償制度について、ご紹介しました。
少しおさらいをすると、まず、日本と同様の法律の存在したドイツやスウェーデンが、それぞれ被害を受けた方に対する補償制度を設けたのに対し、日本政府は、1996年に旧優生保護法が廃止された後、国連等の機関から再三にわたって補償の措置をとるよう勧告されたにもかかわらず、補償制度を設けようとしませんでした。
そうしたなか、平成30年に、旧優生保護法の被害を受けた方による初めての国家賠償請求訴訟が始まり、この問題が社会的に広く知られるようになったことをきっかけに、平成31年4月、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下、「一時金支給法」といいます)」が成立し、施行されました。
その後、令和6年7月3日の最高裁判所の違憲判決を経て、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する補償金等の支給に関する法律(以下、「補償法」といいます)」という新たな法律が成立しましたが、今回は、補償法の前身であり、日本における初めての補償制度である一時金支給法について、ご紹介します。
一時金支給法の概要
一時金支給法は、旧優生保護法に基づき優生手術などを受けた方に対し、国が一時金として320万円を支給することなどを定めた法律です。
具体的には、優生手術を受けた方が請求をすると、必要に応じて都道府県による調査などがなされ、その後、子ども家庭庁に置かれた旧優生保護法一時金認定審査会による審査がなされます。そして、この審査を踏まえて内閣総理大臣が認定をおこない、認定された方に対して一時金を支給する仕組みとされました。
請求にあたり、手術を受けたことの立証が困難である場合もあることから、厳格な証明は不要であり、一応確からしいと認められれば一時金が支給される運用でした。
このように、一時金支給法は、被害者の方にとって一定の意義のある法律でした。
一時金支給法の問題点
もっとも、一時金支給法には、多くの問題点がありました。
まず、一時金支給法においては、旧優生保護法が憲法違反であることが前提とされていなかったため、法律に、その点が明記されませんでした。
次に、一時金支給法の前文に、優生手術を受けた方などに対して、「我々は、それぞれの立場において、真摯に反省し、心から深くおわびする」と定められましたが、主体が不明確であり、国がお詫びをすることも、責任を負うことも、明記されませんでした。
また、補償制度自体の問題として、なにより補償される金額が低額すぎることを指摘できます。望まぬ形で身体に侵襲を受け、子をもうける機会を奪われたことに対する補償金の額として、320万円はあまりに低額です。
さらには、一時金を請求する権利は相続されず、かつ、遺族が請求できる権利も定められませんでした。優生手術を受けた方のなかには、すでに亡くなった方も少なくなかったはずですが、そのような場合には、だれも一時金を請求することができなかったのです。
これ以外にも、優生思想に基づき人工妊娠中絶を受けた方に対する補償がなされないなどの問題もありました。
補償法の成立
その後、先に述べた経緯で補償法が成立し、施行されました。
次回以降は、補償法の内容について、ご紹介したいと思います。