私は、普段、子どもの権利に関する多くの案件に取り組んでいます。
子どもの権利といってもさまざまなものがありますが、特に社会的に注目を集めるのが、いじめの問題ではないかと思います。私自身も、いじめの問題に取り組むことが少なくありません。
また、いじめの問題について定めるいじめ防止対策推進法に関して、昨年、文部科学省のガイドラインの改訂がなされました。
そこで、今回は、いじめに関する問題を取り上げてみたいと思います。
いじめ防止対策推進法の制定
ご存じの方も少なくないかもしれませんが、平成23年10月、大津市立中学校の2年生の生徒が、いじめにより自殺をするという痛ましい事件がありました。
当時、いじめについて直接的に規律する法律はありませんでしたが、事件直後に大津市長に就任した越直美弁護士が、市長の附属機関として、大学教授や弁護士を構成員とする第三者調査委員会を立ち上げ、同委員会が詳細な調査を実施しました。
他方、この事件を受け、平成24年7月13日に、当時の平野博文文部科学大臣が、「すべての学校・教育委員会関係者の皆様へ」と題する文部科学大臣談話を発表しました。この談話のなかでは、「子どもの生命を守り、このような痛ましい事案が二度と発生することのないよう、学校・教育委員会・国などの教育関係者が担うべき責務をいまいちど確認したいと思います」などと述べられました。
そして、平成25年6月21日、いじめ防止対策推進法が可決成立し、同年9月28日に施行されました。
いじめ防止対策推進法の目的
いじめ防止対策推進法は、まず、「いじめが、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせる恐れがあるものである」としています(1条)。
そのうえで、この法律は、「児童等の尊厳を保持するため」、①いじめ防止、いじめの早期発見及びいじめへの対処(以下、法にならって「いじめ防止等」という)のための対策に関する基本理念を定めること、②国及び地方公共団体などの責務を明らかにすること、③いじめ防止等のための対策に関する基本的な方針の策定について定めること、④いじめ防止等の対策に関する基本的事項を定めることにより、「いじめ防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進すること」を目的としています(1条)。
いじめの定義の変遷
いじめ防止対策推進法制定前、「いじめ」を定義する法律はありませんでした。そのため、文部科学省(平成13年以前は文部省)が学校に対して毎年実施する「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」におけるいじめの定義が参考にされていました。
例えば、平成6年度から平成17年度までは、①自分よりも弱いものに対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているもの、などと定義されていました。すなわち、このころは、「強者/弱者」という関係や、一方向性、継続性、苦痛の深刻性が、いじめの要件とされていました。
もっとも、いじめの定義を厳格化すると、被害を受けた児童や生徒が適切な支援を受けられない可能性があることから、時代とともにいじめの定義が緩やかになり、そして、いじめ防止対策推進法の定義に至ります。
次回は、この法律におけるいじめの定義について、ご紹介します。