今号も、前号に続き、インクルーシブ教育について取り上げたいと思います。
まずは前号のおさらいをしておきたいと思います。前号では、憲法26条が保障する教育を受ける権利や、最高裁判所が言及した学習権の概念について紹介しました。
また、前号では、1947年に制定された学校教育法の規定と障害児の教育制度について紹介し、養護学校が義務的に設置された1979年までは、障害児が就学猶予または免除の対象となり、就学できないという状態が生じていたことも紹介しました。そして、このような状態は、障害者にとって、憲法26条によって保障された教育を受ける権利が侵害された状態であったことから、憲法違反の状態であったと評価できると思われることを述べました。
他方で、養護学校の設置義務化までは、各地の取組みにより、障害児が、養護学校ではなく、地域の学校に就学し、普通教育を受けるという実例もあったことを紹介しました。
今号では、現行の学校教育法における、障害のある児童生徒の就学先決定のプロセスの大枠について、ご紹介します。
就学先決定の手続き
まず、市町村教育委員会は、毎学年の初めから5か月前までに(すなわち10月31日までに)、当該市町村に住所を有する就学予定者の学齢簿を作成し(学校教育法施行令2条)、原則として、学年の初めから4か月前までに(すなわち11月30日までに)、就学前の健康診断を実施します(学校保健安全法11条、同法施行令1条)。
その後、市町村教育委員会は、就学前の健康診断の結果を踏まえ、「視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)」(以下、「障害者等」といいます)で、その障害が一定の程度であり、当該市町村教育委員会が、特別支援学校に就学させることが適当と認める者を除き、翌学年の2か月前まで(すなわち1月31日まで)に、保護者に対して、就学すべき学校を通知します(学校教育法施行令5条1項)。ここでの学校は、小学校、中学校等、地域の学校を意味します。
他方で、市町村教育委員会は、障害者等のうち、その障害が一定の程度であり、特別支援学校に就学させることが適当と認める者については、翌学年の3か月前まで(すなわち12月31日まで)に、都道府県教育委員会に対し、その者の氏名及び特別支援学校に就学させるべき旨を通知します(学校教育法施行令11条1項)。そして、これを受けた都道府県教育委員会は、翌学年の初めから2か月前まで(すなわち1月31日まで)に、その保護者に対し、就学すべき特別支援学校を通知します(学校教育法施行令14条1項、2項)。
少しわかりにくいかもしれませんが、要するに、障害者等以外の子については、地域の学校へ就学する指定がなされ、障害者等については、市町村教育委員会が、地域の学校と特別支援学校のいずれを就学先とするのが相当であるかを判断する仕組みになっています。
なお、文部科学省のHPでは、「法令で定められている就学先決定のプロセス」として、あたかも障害者等は全員が特別支援学校を就学先と指定されるかのような要約が掲載されていますが、先に述べた仕組みからすると、不適切な要約だと思います。
市町村教育委員会の判断
では、市町村教育委員会が、障害者等の就学先を決定するにあたり、どのような事項を考慮し、どのようなプロセスを経るのでしょうか。
次号では、この点について、ご紹介したいと思います。