最高裁判決と補償制度
これまでのコラムで、旧優生保護法に基づき強制的に不妊手術を受けさせられるなどの被害を受けた方による国家賠償請求が認められた最高裁判所令和6年7月3日判決について、何度かご紹介してきました。この最高裁判決は、不妊手術について定める旧優生保護法の規定が憲法違反であることを明確に示すとともに、被害を受けた方全員が賠償される法理を採用した画期的な判決でした。
もっとも、判決そのものの効力は、当事者に対してのみ及ぶものです。したがって、訴訟をされなかった被害者の方は、この判決により、自動的に賠償を受ける地位を得られるわけではありません。
そこで、判決後、訴訟をされていない方にも賠償がなされるように、補償制度が整備されました。具体的には、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する補償金等の支給等に関する法律(以下、「補償法」といいます)」という法律であり、令和6年10月8日に成立し、令和7年1月17日に施行されました。
そこで、今回から数回にわたって、被害を受けた方に対する補償制度について、ご紹介したいと思います。
日本政府が補償のための法的措置をとらなかったこと
旧優生保護法は、障害のある方などに対して強制的に不妊手術を受けさせることなどが定められた法律であり、1996年まで存在していました。
日本と同様の法律があった国として、ドイツやスウェーデンが知られていますが、ドイツは昭和63年に、スウェーデンは平成11年に、それぞれ被害を受けた方に対する補償制度を設けました。
他方、日本においては、旧優生保護法廃止後も、長い間、補償制度がありませんでした。
その経過をご紹介すると、平成10年、国連の自由権規約委員会が、日本政府に対し、強制不妊の対象となった方の補償について必要な法的措置がとられることを勧告しましたが、平成18年、日本政府は、自由権規約委員会に対し、旧優生保護法に基づきおこなわれた手術が適法であることを前提として、補償することは考えていない旨の回答をしました。
その後も、自由権規約委員会は、日本政府に対し、複数回にわたり、補償に必要な法的措置がとられるよう勧告しました。また、平成28年には、国連の女子に対する差別の撤廃に関する委員会が、日本政府に対し、被害を受けた方が法的救済の措置などを受けられるよう具体的な取組みをおこなうよう勧告しました。
この間、日本弁護士連合会もまた、日本政府に対し、複数回にわたって、被害を受けた方への補償の措置を講ずることなどを求める意見書を公表しました。
しかし、日本政府は、これらに対し、なんら応答せず、補償のための法的措置をとりませんでした。
一時金支給法
こうしたなか、平成30年に、旧優生保護法の被害を受けた方による初めての国家賠償請求訴訟が始まりました。
これに伴い、旧優生保護法の問題が広く報じられるようになり、社会的にも知られるようになりました。
そして、訴訟ではなく、立法的な解決がなされる必要があるとの声も大きくなり、平成31年4月、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下、「一時金支給法」といいます)」が成立し、施行されました。
一時金支給法は、被害を受けた方への補償を定めた点で意義はあったと思いますが、さまざまな問題点もありました。
次回は、一時金支給法の内容と問題点をご紹介したいと思います。