私たちが普段目にする葉っぱの色といえば、「緑色」の活動葉か、秋に色づく「紅葉」の老化葉ではないでしょうか。活動葉では葉緑体が太陽の光を受けて光合成をおこない、植物が成長に必要なエネルギーを生み出しています。老化葉は、寿命を迎える前に葉緑素を分解し、残った栄養を本体へ戻しながら、赤や黄色の色素が浮かびあがることで紅葉します。つまり、緑色にも紅葉にもちゃんとした機能があります。今号では、これらと異なる意味と役割で色づく熱帯植物をご紹介します。
観葉植物としても知られるドラセナの若葉には、赤や黄色が混ざっているものがあります。緑色が少ないと光合成に不利なようにも思えるのですが、そこには別の理由があって、赤や黄色の色素(アントシアニンやカロテノイド)は、熱帯環境の強い日差しや紫外線から葉を守る「日焼け止め」のような役割を果たしていると考えられています。
庭先を鮮やかに彩るブーゲンビレアのピンクや白、紫の「花」に見える部分は、実は花ではなく「苞葉」と呼ばれる葉が変化したものです。苞葉は本来緑色ですが、花を目立たせるために色づくという戦略をとっています。虫や鳥などの花粉媒介者に目立つ色でアピールし、小さくて目立たない本物の花に誘導しています。
海沿いの汽水域に群生するマングローブでは、葉が「塩を捨てる」機能を担っています。根から吸い上げた海水中の塩分を、犠牲となる1枚の葉に溜め込んだあと、黄色くなって落葉することで体外へ塩を排出しているのです。落ちた葉をかじると、ほんのり塩気があります。
私たちはつい見た目の美しさに目がいきがちですが、植物が実直に機能性を追求した結果であることがわかります。また、枯葉が茶色く見えるのは、葉緑素や他の色素が分解された後も、虫から葉を守る働きをするタンニンなどの茶色の色素が残るためで、茶色はただの「終わり」ではなく、植物が生きた証として最後まで残る色なのです。
左からドラセナ、ブーゲンビレア、ヤエヤマヒルギ(マングローブ)