「サトウキビはなぜ甘い?」というストレートで素朴な問いについて、サトウキビと並ぶ砂糖の2大原料「甜菜」と甘い果物の代表格「スイカ」を比較対象として解説します。
糖を蓄えているから「甘い」ということは共通していても、植物の観点で見た目的や機能は異なります。
サトウキビと甜菜は、自らの越冬と再成長のために必要なエネルギーとして数カ月以上の長期間に渡って糖を貯蓄しています。サトウキビは翌年の発芽に備えて茎に糖を蓄え、甜菜は翌年の種子形成に備えて根に糖を蓄えます。一方スイカは、甘い果肉を動物に食べてもらい、種子を糞とともに遠くへ運ばせるという拡散戦略のために一時的に糖を溜め込みます。
糖を蓄える目的の違いに応じて、糖の種類も異なります。サトウキビと甜菜が蓄える糖は主にショ糖で、スイカが蓄える糖は果糖やブドウ糖です。ショ糖は茎の内側にある糖の輸送管(篩管)を通って、サトウキビの場合には5メートル以上の長距離を輸送することができ、また化学的に安定なのでエネルギー源として長期保存できます。これに対して果糖やブドウ糖は浸透圧の問題から篩管を通した輸送に不向きで、また化学的に不安定で変質してしまうので長期保存はできません。視点を変えて、即座に動物に食べさせたい目的に照らしてみると、スイカはショ糖の約1・5倍の甘さをもつ果糖を一時的に産出して動物を惹きつけているのです。
防衛機能は正反対で、サトウキビは硬く繊維質な茎で物理的に守り、甜菜は土の中に糖を隠すように保存するのに対して、スイカはそもそも食べてもらうために無防備であることが前提です。
また、自然栽培のサトウキビは夏場でも20度近い高い糖度を維持します。これは一見不可思議な現象ですが、高温期は光合成が盛んで、糖の生産が消費を上回るためです。
私たちが甘い・美味しいと感じる砂糖とスイカは、植物の観点から見ると随分と様子が異なりますね。自然の営みに感謝して美味しく頂きたいと思います。
甘さの理由や機能は実はまったく異なる甜菜とサトウキビ、スイカ