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バッチフラワー物語

【Vol.65】第1話「レスキュークリーム」思い出の地での最高のおもてなし「苦手喫茶」の引き寄せ相談 その1

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 東京の文京区にある団子坂を上るとすぐに森鴎外図書館の案内板が見えてくる。その先を少し行って左に曲がると今にも取り壊されそうな古びた二階建ての木造の民家がある。一見なんのへんてつもない町屋だが、反対側に回ると申し訳程度の小さな看板と入口がある。そこには「苦手喫茶」と書かれてあった。

 ここは知る人ぞ知る「引き寄せ相談」の店だ。マスターは引き寄せの呪法を会得しているとのうわさで、その人に今必要なものを引き寄せると言われていた。今日も全国から悩みを抱えた人が何かに引き寄せられるかのようにドアを開ける。もちろん、何の悩みもなさそうな常連たちもいつの間にか集まってくる。

 店の中に入ると、脳をくすぐるようなコーヒーの強いアロマが漂っていた。4人掛けの四角いテーブルが3つと、6人掛けのカウンターがあるだけのこじんまりした感じの店である。店には先客が1人。カウンターの中ではマスターがコーヒーを淹れていた。

 「いらっしゃい、空いてる席へどうぞ。」ドアの開く音にマスターは顔を上げずに声をかけた。

 「はい。」女は一番奥の席へ腰かけるとすぐにコーヒーを注文してゆっくりと店内を見回した。普通の喫茶店と雰囲気が違っていてどこか落ち着かなかった。

 店にはポットのお湯がコポコポいう音と、時折大通りを通り過ぎるトラックが古すぎる家をガタガタきしませる音しか聞こえなかった。スピーカーからは何のBGMも流れてこない。マスターは長めの白髪とサンタのような白い髭で顔じゅう覆われており、痩身長躯のわりにお腹だけはポッコリ出ていた。いった何歳なのか ? 全く見当がつかない。

 「あの、人に紹介されてきました。夢を見れるって聞いて…未来の…」コーヒーがテーブルに運ばれると、女は思い切って話しかけた。40歳ぐらいで、若いころはかなりの美人だったのかもしれないが、今は大きな目の周りに人生の苦労がゆっくりとにじみ出ていた。美人は目のあたりから老ける。コーヒーをテーブルに置きながら苦手雄蔵はふとそう思った。「ニガテユウゾウ」の苦手がこの店の名前になっている。

 「カワは好きですか。」まるで女の問いが聞こえなかったようにマスターがぶしつけに尋ねた。

 「カワ ? ? ? ってあの流れている川のことですか ? 」それとも…女は自分の皮製のハンドバックに困ったように視線を落とした。

 「そうです流れている川のことです。」そう云うと女の目をのぞきこむようにじっと見た。

 「別に好きでも嫌いでもありません。というより考えたこともないです。」気がつくと意識が飛んで、女は大きな川の辺に佇んでいた。小さな堰が段々になって水が渦を巻きながら流れ落ちていた。見るとはなしに流れを見ていると、忘れていた記憶が少しずつ甦ってきて胸が疼いた。

 「マスター、マスター、また唐突にわけの分かんないこといいだすんだから。」カウンターの奥にいた男がへらへら笑いながら女の思考を遮った。

 「この女性の話の前に、さっきの私の問題何とかしてよ。」頭の少し薄くなりかけている男は肩のあたりをさすりながらマスターに話しかけた。

 「ああ、すみません。じゃあまずキョジャックさんからいきますか、おじょうさんは少しまっとってください。」女に断りを入れると、マスターが話を続けた。「お嬢さん」という言葉を久々に聞いた気がして、女はにっこりとうなずいた。

 「この方はこの店の常連のキョジャックさん、生まれつきの虚弱体質なのでそう呼ばれています。近所にある探偵事務所の所長さんで、おかまでもないのにすぐに女言葉になるくせがあるのですが、こんな見かけによらず業界では凄腕探偵で通っており…」マスターは聞いてもいないのにキョジャックさんの紹介を始めた。

 「この店では、名前は名乗る必要はありませんが、相談者の悩みはそこにいる人と共有する決まりになっていまして、それが嫌ならこのままお帰り下さい。」女がうなずくのを了解と取って話は続いた。

 「キョジャックさんはみてのとおり、手足は細いのにおなかはポッコリまん丸の、私と同じで、いわゆる東洋医学でいうところの陰性体質です。それなのに体を鍛えるのがやたらと好きで…」
(続く)


矢吹 三千男

矢吹 三千男氏 生来の虚弱体質で16歳の時に十二指腸潰瘍を患い、ヨガと占いにはまる。二十歳の時には身長が175センチで体重は50キロ。いつも複数の薬を持ち歩く。様々な健康法を実践するもほとんど効果なく、ようやく食養生で体質改善に成功したのは30代も半ばを過ぎていた。その時、生まれて初めて「健康」を実感する。製薬会社勤務などを経て、その後バッチフラワーに出会い、現在(株)プルナマインターナショナル代表。 著書『感情のレッスン』文芸社刊

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- バッチフラワー物語 - 2013年2月発刊 Vol.65

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