私は家族というものがあまり好きではありませんでした。幸いなことに親が厳しすぎるとか暴力を受けるということはありませんでしたが、私にとって家は安心できる場所ではありませんでした。まるで白い羊の群れのなかに黒い羊が一匹いるような家族に馴染めない子ども時代を過ごし、成長するにつれ会話もなくなり、ただの同居人のような関係のまま大人になってしまいました。子どものころキャンプやスキーなどに連れて行ってもらったこともあるのに、家族との記憶はすぐに消えてしまうようになりました。
その影響か、子どものころから人に流された経験もなく「自分で考え行動する」ことが癖づいていました。社会に出ると、この能力はとても役に立ちましたが、本当のところ「人を信用できない」という想いの方が強かったのです。
そんな私が結婚していきなり5 人家族になる決断をしました。妻は再婚で子どもが3人。しかも全員女の子!男兄弟育ちの私には、未知との遭遇。彼女たちの言動や行動は、私にとって「なぜ?」の連続でした。価値観のギャップがありすぎて、全員宇宙人にすら見えてきます(笑)。今でも自分の価値観をぶつけて嫌な想いをさせてしまうこともありますが、じっくり観察していると、そこには信じられない光景があることに驚きました。子どもが母親に楽しそうに話をし、母親はしっかり受け止めて対話をしているのです。その光景がなんとも優しくて美しいのです。普通の家庭では当たり前のことかもしれませんが、話を聞いてくれないのが母親と思い込んでいた私は、価値観がゴロっと変わってしまいました。
今は、子どもの一人が就職して4人家族ですが、家族とはこういうものだというのを毎日教えてもらっているように思います。みんな私にとって大事な先生です。そのおかげもあり、両親の気持ちも少しずつわかるようになってきました。
私の両親はきっと、子どもは自分と同じものだと思っていたのでしょう。でも、実際は宇宙人だった。価値観が全く違うから理解できない。どうしたらいいのかわからないなりに、一生懸命親をやろうとしてくれていたのだということが、ようやくわかるようになってきました。同じ人間同士だから「わかる」だろうとか「できる」だろうというのは思考の癖なのかも。人として同じでも、顔や個性が違うように同じではない。親はこうあるべき、子どもはこうあるべきを一旦外してみて、家族という前提を崩してみると、もっとお互いが柔らかく生きやすくなることもあるのかもしれないと思うようになりました。妻と子どもには「きっかけ」をもらったと思っています。感謝。
プロモーションセクション 寺嶋 康浩(てらしま やすひろ)
2015年入社。商品の企画、デザイン、製造管理、ライティング、弊誌の編集&執筆、
販売スタッフ、講座運営、ワークショップ講師などを担当。
要は「何でも屋」。自然が大好き。趣味は山登りやシュノーケリング、古武術。