春の気配が漂い始める3月。日本では古くから、この季節に自然と咲く花々を「目で愛でる」だけでなく、「体に取り入れる」文化が育まれてきました。なかでも、菜花と桜は、まさに日本を象徴する伝統的なエディブルフラワー。料理にそっと添えるだけでも華やかになり、春らしさが演出されますよね。見た目だけでなく、じつは心身にとって嬉しい栄養もたっぷり含んでいるんです。春の生命力をそのままいただける、やさしくて力強いヒーリングフードです。
菜花 ― ほろ苦さに宿る
「春の薬効」
菜花は、アブラナ科の花芽の部分を食用にしたもの。まだ寒さの残る時期に、子孫を残すためにぐっと花芽が伸びて花を咲かせようとする姿は、春のエネルギーそのものです。日本では、早春のごちそうとして菜花のおひたしや和え物を楽しむ習慣があり、これは単なる季節の味わいではなく、冬に滞りがちな体を目覚めさせる知恵でもありました。
菜花には、β-カロテン、ビタミンC、葉酸、鉄分、カルシウムなどが豊富に含まれています。特にビタミンCとβ-カロテンの組み合わせは、抗酸化作用が高く、肌の再生や免疫力のサポートに役立ちます。また、ほろ苦さのもとであるポリフェノール類は、冬の間に溜め込みがちな老廃物の排出を促し、春のデトックスにぴったり。
「春は苦味を食べよ」といわれるように、菜花の苦味は、心身の巡りを整える「春の薬効」として大切にされてきました。
桜 ― 花を愛で、香りを味わう
日本独自の食文化
3月から4月にかけて、日本中が桜色に染まる季節。花見は、ただ花を眺めるだけでなく、桜を食として楽しむ文化とともに発展してきました。桜餅や桜茶、桜ご飯など、桜の香りを食卓に取り入れる習慣は、世界でも珍しい日本ならではのものです。この時期は、カフェのドリンクメニューにも桜フレーバーが多くなり、季節を彩る素材としても桜は大人気です。
食用として使われる桜は、主に桜の花びらの塩漬けです。代表的なソメイヨシノではなく、主に濃いピンク色の八重桜を使います。桜を塩と梅酢で漬け込むことで、桜特有の香り成分「クマリン」が引き立ち、ふわりとした春の香りが広がります。クマリンには、リラックス効果や血行促進作用があるとされ、心を落ち着け、巡りを整える手助けをしてくれるヒーリングフードとしても注目されています。
さらに、桜の花びらにはポリフェノールが含まれ、抗酸化作用によって肌のくすみや乾燥を防ぐ働きも期待できます。春先は気温差や花粉などで肌がゆらぎやすい時期ですが、桜の香りと成分は、心と肌の両方にやさしく寄り添ってくれます。
春の花をいただくということ
菜花と桜に共通しているのは、「春の生命力を体に取り入れる」という日本人の感性です。菜花のほろ苦さは、冬の間に縮こまった体をゆるめ、巡りを促すサイン。桜の香りは、緊張をほどき、心をふわりと軽くしてくれる癒しのエッセンス。どちらも、ただの食材ではなく、季節の変わり目に心身を整えるヒーリングフードとして、長く受け継がれてきました。
春は、新しいことが始まり、気持ちも体も揺らぎやすい季節。そんなときこそ、自然のリズムに寄り添うように、菜花の苦味や桜の香りをゆっくり味わってみてください。花をいただくという行為は、自然のエネルギーをまるごと体に迎え入れること。春の訪れを五感で感じながら、心と体をやさしく整える時間を楽しみましょうね。お皿の上に咲いた小さな春が、あなたの心身をやさしく癒してくれますように。
