NPO法人テラ・ルネッサンスでは、2010年11月から地雷被害者家族への自然養豚の支援をしています。目的は、地雷被害者家族の収入向上と自立です。地雷被害者は障害を負っているため、重労働にならず他の家族でもできる方法で、何かいい支援ができないかと考えてきました。また、貧困層の地雷被害者の多くが大きな農地を持たず、小さな土地に家を建てて生活し、村の地主やタイへ小作人として出稼ぎにいって日当を得ることになります。この小作人としての収入以外に、副収入を得られるものが何かあれば、生活は安定します。カンボジアの農村では昔から豚や鶏などを飼育していましたが、村落開発支援をしている村の地雷被害者家族のなかに豚飼育をしている人はいませんでした。豚はマーケットで需要が多く、昨年、豚の病気がカンボジアでも流行ったことが豚の値段を押し上げていました。
そんな中、韓国で独自の自然農業を実践していることで有名な趙漢珪さんの著書『土着微生物を活かすー韓国自然農業の考え方と実際』のなかに自然養豚の方法が書かれているのを目にしました。この方法は豚舎の床に、カンボジアで多く行われているコンクリートではなく、おがくずを利用することで豚の糞尿と混ざり微生物が発酵し、豚舎の清掃もいらず、豚が病気に罹りにくく、健康に育つというものです。必要なおがくず、自然塩は、カンボジアの農村で簡単に手に入ります。貧困層の家族ができるだけコストを掛けずにできる自然養豚は、地雷被害者家族にはぴったりでした。また、養豚と聞くと悪臭を思い浮かべますが、おがくずを利用することで微生物が発酵し、豚舎が臭くならないというのです。半信半疑でしたが、悪臭がなければ、家のすぐ近くに豚舎があっても大丈夫なはずです。広い土地を持たない地雷被害者家族には、この点でもいいのではと考えました。
ちょうど養豚支援の用意をしていた2010年10月頃、長崎のNPO法人コミュニティ時津の5名の方がバッタンバンを訪問してくださいました。そこでご案内した地雷被害者のパン・プンさんの家で、このような質問をパン・プンさんの奥さんにされました。「もしお金があれば、どうやって収入を向上させたいですか?」その質問に奥さんは、「豚や鶏、アヒルなどの家畜を飼いたいです」と答えたのです。普通であればそれで終わりますが、コミュニティ時津の方は、そこで子豚を購入するための資金を渡してくださいました。パン・プンさんの家族は、地雷被害者のなかでも特に厳しい生活を強いられており、村人に小さな家を借りて住んでいます。7人の子どものうち、長女はブローカーに騙されてマレーシアに人身売買として連れていかれ、上の3人の男の子は、バッタンバンの孤児院に預け、小さな下の3人の子どもたちも、食べるものがないほど厳しい生活をしていました。このNPO法人コミュニティ時津の皆様のおかげで、まず試験的にパン・プンさんの家族に豚飼育支援をすることになりました。テラ・ルネッサンスからは豚舎の建設をサポートしました。
試験飼育はうまくいき、本に書いてあったとおり、発酵臭は少しあるものの、ほとんど臭いは気になりません。豚の成長は化学飼料などを使用した場合よりも遅いですが、それでもとても元気に成長しました。何よりもこの豚は、非常に人懐っこい豚でした。人が来るとすぐに近寄ってきます。パン・プンさんの8歳の男の子はよく面倒を見ていて、この子が豚の上に乗ると、餌を食べるのをやめて大人しくなるのです。ある日お母さんが市場へ出かけているときに、豚が逃げ出したことがあったそうですが、お母さんが帰ってくると、すぐ自ら戻ってきたそうです。残念ながらこの豚は、飼育を始めてから5ヶ月目のクメール正月中に、子どもの病気の治療費のために緊急に売りに出されてしまいました。豚はまだ成長途中で、売りに出すには早かったのですが、家庭の緊急の出費のためではどうしようもありません。40万リエル(約100ドル)でした。ただ、地雷被害者家族もまた継続して飼育したいと話していましたし、奥さんや子どもたちだけでも豚の面倒を見ることができるので、非常に有効な支援であることが分かりました。今度は他の地雷被害者家族にも支援を拡大していくことになったのです。
・・・次回に続く。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 NPO法人テラ・ルネッサンス >> Premaラオスプロジェクト >> |