カンボジアの地雷原をテラ・ルネッサンス創始者の鬼丸昌也は、“音の無い世界”と表現しました。「音」には、いろいろな種類がありますが、地雷原には“人々が生活する「音」”が無いのです。今回は、2012年8月22日に金沢大学の学生サークルと共に訪問したテラ・ルネッサンスが提携する地雷撤去団体MAGの地雷撤去現場、“音の無い世界”からの報告です。
今回向かった先は、バッタンバン州ラタナック・モンドル郡スダウ・コミューンの中にあるクロッ・クローン地雷原。ここもまた、1979年以降の戦争で使われた地雷が残っているところです。この地雷原では、MAT1(第1地雷撤去チーム)と第3地雷探知犬チームの2つのチームが活動をしていました。すでに第3地雷探知犬チームは活動を終えて、別の地域に移っていましたが、第1地雷撤去チームはまだ活動をしていました。2つのチームが活動する理由は、この地雷原は、調査によって2つのレベルに分けられた場所からなっているからです。1つは対人地雷と不発弾が混在しているエリア、もう1つは対人地雷があることが推定されるエリアです。後者の方は、それほど地雷は多くないと考えられるため地雷探知犬を使って撤去したほうが、早く効率的に撤去できるのです。この地雷原では、2012年6月11日から撤去活動を始め、9月11日までに撤去活動が終わる予定です。地雷原の面積は6万7千718平方メートル、この日までに撤去が終わった面積は、5万9千52平方メートルになります。そのうち、3万7千368平方メートルが地雷探知犬チームによって、2万1千684平方メートルが地雷撤去チームによって撤去終わっていました。すでに撤去された対人地雷の数は43個、いずれも中国製の地雷です。対戦車地雷はなく、不発弾が2個撤去されていました。また鉄の破片が8千519個。これは、金属探知機に反応する鉄の破片を取り除くためです。
こうした地雷原に関する概要を聞いたあと、地雷撤去のデモンストレーションをしてくれます。このデモンストレーションは、すでに安全が確認されたところで行われますが、金属探知機の反応に耳をすませ、地雷撤去作業員の緊張した真剣な表情から、自然と静寂が生まれます。説明をしてくれるMAGのスタッフの声が、時折その静寂を打ち破るぐらいです。1つの説明が終わると、聞こえるのは金属探知機の鳴るウーピーピーウーという音だけ。そこには、ここで生活するはずの村人たちの話し声や、笑い声、料理を作る音、薪割りをする音、こうした生活に関係する音は聞こえてきません。
デモンストレーションの後、いよいよ地雷原の中へ入っていきます。安全が確認されたところを歩きますが、まだ撤去されていないところはすぐ目と鼻の先。訪問者も緊張しながら、やはり自然と静かになります。MAGの規則では安全のために30 m以内に人が入ってきた時には、自動的に作業をやめるため、これまで聞こえていた地雷撤去作業の音さえも無くなります。案内された場所には、今朝見つかった6個の小さな緑色の地雷。中国製のタイプ72。20~30㎝間隔で、一列に綺麗に並んで、少しだけ地面から顔を出した地雷は、本当に静かです。いくら近くまで行っても、踏むまでウンともスンとも言わないのです。ここでも聞こえる音は、MAGのスタッフの説明してくれる声と、時折風で揺れる木の葉の音ぐらい。本当に静かな世界です。
地雷の見つかった場所から数百メートル離れて、爆破作業を待ちます。導火線が遠隔操作のスイッチにつなげられました。一瞬の静寂の後、3度の長い笛と3度の短い笛が吹かれ、訪問者の一人がスイッチを押します。6つの地雷が大きな1つの爆破音とともに大地を揺るがし、吹き飛びました。この大きな音は、また再びこの大地に人々の生活の音が戻ってくる合図なのかもしれません。訪問者の一人が、説明をしてくれたMAGのスタッフに聞きました。「この地雷原が、将来どのようになってほしいと思いますか?」MAGのスタッフは、こう答えました。「地雷が全て撤去されて、安全になり、村の人達が安心して生活でき、この辺りが発展していって欲しい」。その答えから、この地雷原で将来人々の生活する音が聞こえてくるようでした。私達の地雷撤去の目的は、“音の無いこの世界”で、「人々の生命を守り、未来を創るため」なのです。
音のない世界 地雷撤去現場 | 音のない世界に鳴り響く爆破音 |
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 NPO法人テラ・ルネッサンス >> Premaラオスプロジェクト >> |