今回は、カンボジアの地雷生存者への差別について。先日のカンボジア事務所での朝礼で、たまたまこの話題になったのです。最近の朝礼では、それぞれのスタッフが少しずつトピックを持ちより、話をすることになっています。別にこのトピックにすると事前に決めたわけではないのですが、その時の状況によって、自然とこの話題になりました。現在カンボジア事務所には、2名の女性地雷生存者のスタッフがいます。彼女たちは、性格もよく、明るく、仕事もまじめにやってくれるので、とてもいい雰囲気を作ってくれています。いつも明るい2人にも、差別を受けたつらい経験があり、そのことに関して話してくれました。
地雷生存者の1人であるラウは、ある事例を話しました。彼女は2001年に地雷事故に遭って、左脚の膝から下を切断し、現在は義足をはめています。でも普通にズボンを掃いて、靴を履いていると、一見分かりません。ある日、村人と話をしていたそうです。とても普通に話をしていたのに、彼女が義足をはめている地雷被害者だと分かったとたん、なぜか冷たい態度に変わったそうです。
また、ある人は、彼女にこんな意地悪な質問をしました。「地雷被害者にも、心があるの?」最初は、彼女もその質問の意味が分からなかったそうです。私も話を聞いていて、どういう意図の質問か分かりませんでした。地雷被害者への偏見からくるものだと分かった途端、ラウ自身も本当に怒りが溢れてきたそうです。でも彼女は、普通に答えました。「地雷被害者にも、心はあります。嬉しければ喜ぶし、悲しければ泣くし、普通の人よりも、もっと心があります。」彼女がそう答えた時、どんなにやりきれない気持ちだったか分かりません。彼女は、朝礼では、続けてこう言いました。「“心があるのか”というのは、本当に馬鹿げた質問だったわ。だって、地雷の事故に遭って、脚が裂けた時の痛みといったら耐えられるものではなかったし、病院で脚を切断した時は、とにかくこのまま死にたかったんだもの。」これにもう一人の女性地雷生存者のイェットも同意しました。「私も同じよ。地雷事故に遭ったときは、本当に死にたかった。生きてなんていたくなかったわ。」恐らく彼女らが本当に明るいのは、死にたいと思うほどのつらい経験をしているからなのでしょう。本当に“心があるの?”と聞きたいのは、質問した人の方です。
事務所では、他のスタッフ以上に率先して掃除をしたり、仕事をしてくれている2人から、こうしたカンボジアの社会での差別に関して聞くのは、とても驚くことでした。そうした障害のことを忘れさせてくれるほど、まじめに、そして明るく仕事をしてくれているからかもしれません。久しぶりにこうした差別について、考えなおす時になりました。カンボジアの仏教における“前世によって何か罪深いことをしたから、今こうした報いを受けて地雷被害に遭う”という考え方が、差別や偏見につながっているという考え方がありますが、そういったことが本当にあるのか現地スタッフに聞いてみました。多くの現地スタッフたちは否定していましたが、地雷生存者のイェットは、「自分の母親は、差別や偏見にはつながっていないが、こうした考え方を持っている」と話してくれました。カンボジアの社会では、プノンペンやバッタンバンなどの街やマーケットなどでも、地雷生存者を日常的に目にすることがあります。そういう意味で、障害に関しての差別や偏見は比較的少なくなっているのかと思っていましたが、やはりまだまだ存在しているようです。
テラ・ルネッサンスの女性スタッフで裁縫技術トレーナーのサムリット・ラウ 地雷生存者でもある | テラ・ルネッサンスの女性スタッフで会計を担当するヨート・イェット |
テラ・ルネッサンスでサポートをしている地雷生存者の多くも、障害によって仕事や家事でさえも思うようにできず、貧困や経済的な家庭の状況以外にも、周囲の人からの偏見や差別などとも闘いながら、生活していると言えます。今まで会った地雷生存者のなかには、メンタル面での問題を抱えている人が多くいました。その人たちの本当の心の苦しみは、実際に自分が地雷事故に遭ってみないと分からないのかも知れませんが、その地雷被害者の人たちの生活に寄り添っていくことで、少しはその苦しみを和らげることができるかも知れません。そして、地雷生存者の2名の女性のスタッフは、他の現地スタッフだけでなく、他の地雷生存者へもより大きな勇気を与えてくれています。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 NPO法人テラ・ルネッサンス >> Premaラオスプロジェクト >> |