「この身体、いったい何があったんですか?」
リンパマッサージの先生に驚かれたのは、一か月ほど前のこと。ローフードを始める前からのお付き合いになるので、先生は、調子のいいときも悪いときも、身体を触って、様子を知っている。絶好調で背中に羽が生えて飛び立ちそうな状態も知っているし、今だからいうけど、表向きには好調な顔をしていても、仕事のし過ぎで全体が疲弊しているのが先生にはばれてることもあった。
で、そんな先生が今回どうして驚いたのかは、最後まで引っ張ろう。きっかけとなったのは、5月の半ば、「グリーン・スムージーの母」こと、ヴィクトリア・ブーテンコさんが来日されたときのことである。講演会で、ヴィクトリアさんは、人が保存食品として乾麺を大量生産し始めたのは産業革命以降であること、精白した穀物で作った乾麺は、栄養価が低いがカロリーが高いエンプティー商品であることを指摘された。それでふと思ったのだが、パスタって、ロマンスのシーンによく出てくる食べものだ。でも、それって、ワインと同じように、人を酔わせる効果があるからじゃないの?もしかして、デートの翌朝けだるさを感じるのは、パスタにはアルコールと同じぐらい中毒性があるからじゃないか? ……というか、そもそも、甘いロマンスに中毒性があるから、パスタが似合うのではないか?
このコラムでも私の大失恋について書かせていただいたことがあるが、私は、ロマンス中毒の気が強い。でもそれは自分にとって学ぶことがたくさんある大切なもので、捨てる必要を感じてはいなかったのだ。でも、食べものでも、キャリアでも、人間関係でも、徹底的に自分を(ひいては他人を)大切にする生活をこころがけてみると、今や、ロマンスだけが、自分の生活の中で異質なものになっていた。
どう異質かというと、幸福の原因を、自分以外の要素(相手とかシチュエーション)に依存しすぎるのである。それ以外のことでは、適切な向上ポイントを押さえて毎日地道に実践を積み重ねれば、必ず結果は出る。それに対し、ロマンスという一瞬甘美に聞こえる活動の、なんとギャンブル性の高いことよ。自分が頼りにならない幸せのもたらし方なんて、危なっかしくてしょうがない。投資効率、悪い。
そう思ったら、決断も何もなく、突然ロマンスは私にとってガラクタになっていた。もういらない、本気でそう思った。やっと夢見る夢子ちゃんを脱したというだけかもしれない。でも、そのとき初めて、男女関係を、「非暴力かつ持続可能」というリアルな視点で見る準備ができたと思うのだ。
「どうしたんですか? 今日は本当に軽い身体しています」。マッサージの先生は、そういったのである。激務の最中で、身体はがちがちでもおかしくない日だった。本当に、今まで自分に、よけいな荷物を背負わせていたらしい。
石塚 とも
石塚 とも氏 東京都生まれ、慶応大学文学部卒。大手出版社勤務を経てフリーに。2001年、品田雄吉賞を受賞し、映画評論家として活動開始。 2006年、ローフードを推奨する健康法「ナチュラル・ハイジーン」と出会い、体重10キロ減を初めとしてさまざまな心身の変革を体験。ローフードが持つ科学的、社会的、人文学的な魅力に魅せられ、研究を重ねる。書籍、講演、ブログを通じて、ローな自分と世界に起こるさまざまな変化を発信し続ける。 著書に『ローフード 私をキレイにした不思議な食べもの』など。 |