お正月休み、せっせと英単語を覚えていた私が夏休みにしていたのは「会計ソフト」のお勉強である。
私がローフードを始めて4年、本が出版されてから2年。ローフードをめぐる状況は本当に変わった。「友達なくすんじゃないか」と怯えていた「ヘンな食事」は、美しく、健康になれると評判のセレブ・フードへ。お教室やカフェを開きたいと夢を持つ人も増えてきた。ローフードにビジネスの可能性が生まれてきたのである。
一方、私はというと、『ローフード・フォー・ビジー・ピープル』の著者に「この本、翻訳させてください」とメールを書いてから3年近く。翻訳をしたのが私なら、印刷所で紙を選ぶのも、価格交渉するのも、デザイナーさんに指示を出すのも、お取引先を開拓するのも、直接取引してくれないお取引先に納入するため問屋さんに仲介を頼みに行くのも、箱詰めするのも運送屋さんに託すのも私……。そのあいまに、いつ、誰から、いくら入金があって出金があるのかもれなくチェックしなければならない。お取引先の数、40あまり……。ひょえー、文句をいっている場合ではない~!
しかし、今ここに書きだしてみてもしみじみ思うのだが、この3年間で、製造から会計まで、ビジネスのいろはを自分で汗かきべそかきやってみて、一通り覚えたことになる。これは経験というか冒険というか、これもまたローフードと同じぐらい一生のタカラになる体験だった。その最後の最後に、会計がきた。今まで苦手だった会計だが、今の会計ソフトというのは、初心者でも実に簡単に導入できるように設計されているのだ。ゲーム感覚で打ち込んでいるうちに、帳簿ができあがってしまう。毎月の現金出納だけでなく毎月のローンや年に1回の保険料の支払いなども管理できるから、家計簿ソフトをつけるぐらいなら本式の会計ソフトを覚えてしまったほうがよほどいいぐらいだ。日々の領収書を財布の中にためこむこともあっというまになくなった。
そして、できあがった帳簿を見て、自分の財政的アイデンティティとでもいいますか、お金を通して、自分が何を考え、どういう生き方をしたいと思ったのかがきれいに見えてきたのである。あといくら収入が必要で、いつの支出にどれぐらい備えればいいかもわかる。ビジネスって、つまり、お金の整理整頓のことなのね、って思った。冷蔵庫掃除並みに気分が良かった(笑)。
会計ソフトはテレビでCMを流しているような有名な商品がいくつか3万円前後で販売されている。一度覚えておくと、無駄な買い物もしなくなるし、なぜかお金ではなくて時間があまるようになった。「やみくも」とは「闇雲」と書くわけだが、お金に対して闇雲であったときは、人生計画全体に対してまさに闇雲だったのだろう。
石塚 とも
石塚 とも氏 東京都生まれ、慶応大学文学部卒。大手出版社勤務を経てフリーに。2001年、品田雄吉賞を受賞し、映画評論家として活動開始。 2006年、ローフードを推奨する健康法「ナチュラル・ハイジーン」と出会い、体重10キロ減を初めとしてさまざまな心身の変革を体験。ローフードが持つ科学的、社会的、人文学的な魅力に魅せられ、研究を重ねる。書籍、講演、ブログを通じて、ローな自分と世界に起こるさまざまな変化を発信し続ける。 著書に『ローフード 私をキレイにした不思議な食べもの』など。 |