ブログに「ロマンチック・ラブはガラクタだ」と書いたのが2010年の5月28日(アップした時間の都合で29日付になっているが)。そして、翌29日土曜日に、その出来事は起こった。
待ち合わせたのが朝の8時50分。なんとも健康的な時間のため、浅草は店も開いていない。朝の9時に五重塔の前で写真を撮ったりして、何をやってんだか。
東武特急に乗って到着した日光は、うっすらとガスがかかって雨が降り、ものすごく寒かった。私は「5月に日光」といったら、さわやかな陽光とそよ風を想像していたので、この天気なら遠足はキャンセルされると思っていた。ところが、私をお誘いになった方は決行するという。正直、おっかなびっくりついて行ったという感が強い。
ところが、この「霧雨の、寒い日光」が素晴らしかったのだ。まず、天気が悪いせいで人が少なかった。東照宮の森をさすがに独占とはいかなかったが、広々とした空間を楽しむことができた。巨大な杉の木たちはしっとりと雨にぬれて、心を洗うような深い香りを放っている。灰色の空は、「まぶしすぎる空よりも緑が映えるんですよ」と、先方様が教えてくれた。私たちは吐く息を白くしながら森の散策を楽しみ、歴史や宗教や自然の話をした。歩き疲れた後、がらがらのレストランでサラダを注文し、東京から持ち込んだバジル風味のロー・ペスト・アルフレッド・ソースをかけていただいた。先方様が「実家でとれた」といって分けてくれたくるみも、それはそれはおいしかった。
なんでこんなことが突然起こっちゃったかといえば、やっぱりそれは「ロマンスはガラクタだ」と宣言したからだと思うのだ。がちがちに固まった期待が出て行った心のスペースはとても大きく、そこに新しい価値観がたっぷり流れこんできたのだと思う。一つも期待していないのに、ふたを開けてみたら、私の好きなものばかりだった。顕在意識でイメージを固めてしまうことが、いかに可能性を閉じてしまうかを学んだ。最高気温9度という寒ささえ、その日の記憶をまさに体を使って思い出深いものにしてくれた。
この日の出来事は本当に突発的な一期一会で、いわゆる「お付き合い」とはちょっと違うものだった。でもそれもよかったのだと思う。「神様からのギフトをありがたくいただいて、今このときを、精いっぱい大事にしよう」という気持ちになれたから。そして、そんな感謝の気持ちを抱くには、自然の中に行くのがやっぱりお勧めですね。この日も、読めない天気が一期一会感を高めてくれたことは間違いない。
エッチなことは何もなかったが、一度だけ、ほどけた私の靴ひもを、先方様が結んでくれたことがあった。「縛る・縛られる」っていやだけど、「結ぶ・結ばれる」って嬉しいことだな、と、そのとき思った。それも、痛くないぐらいにゆるく結んでおくのが。
石塚 とも
石塚 とも氏 東京都生まれ、慶応大学文学部卒。大手出版社勤務を経てフリーに。2001年、品田雄吉賞を受賞し、映画評論家として活動開始。 2006年、ローフードを推奨する健康法「ナチュラル・ハイジーン」と出会い、体重10キロ減を初めとしてさまざまな心身の変革を体験。ローフードが持つ科学的、社会的、人文学的な魅力に魅せられ、研究を重ねる。書籍、講演、ブログを通じて、ローな自分と世界に起こるさまざまな変化を発信し続ける。 著書に『ローフード 私をキレイにした不思議な食べもの』など。 |