ローフード生活を始めてからの私の生活で感じるのは、自分がある意味、「都市化」しているということ。先月号でも書かせていただいたが、パソコンをはじめ新しい機械を駆使し、したがって、こなす仕事の量も増えた。朝早く起きて、わき目もふらずに仕事をこなして、その後、バレエや映画といった、どちらかというと都会型のエンタテインメントを楽しむ。時間に全然無駄がない。一昔前に、「働きすぎを助長するのでは」と批判された精力剤のコマーシャルで「24時間戦えますか」というのがあったけど、正直、それ以上な気がする……。睡眠だってめちゃめちゃ深くて、次の日には何にだってチャレンジできそうな精神ですっぱり目覚めてしまうのだから。
ローフード生活を始めて以来、私は「エデンの園」についてよく考える。「エデンの園」というのは、人間がまったくの自然状態(猿?)であったときの比喩である。人間はそのとき文明を知らなかった。火を使わないので、食べものは当然ローフード(生食)ばかり。動物を殺して食べることを知らなかったかもしれない
(殺す道具を作れないから)。イノセントで、悩みもなくて、でも、進化もしない存在。エデンの園に生きるということは、そういうことであった。
でも、直立歩行を始めて大脳が進化して人間になっちゃった私たちに課せられた課題は、「エデンの園を出てよかった」と思える生き方をすること。人間としての「成功」というか「達成」って、突き詰めたらそれだと思うのだ。自然を離れることは寂しく、自然を壊す存在である自分に罪悪感を感じるかもしれない。でも、人間の場合、まったくの自然状態には戻れないところから、ライフ(生命=生活)が始まっているのだから。
ローフード生活を始めて私に見えてきたのは、猿でもないけどロボットでもない、「人間」として生きるための、明確な指針だった。自然を尊び、変えることのできないもの(人間の内臓や睡眠の機能)はなるべく自然にまかせてあげる。一方で、仕事、勉強、芸術、スポーツ、コミュニケーションなど、人間が作り出したものについては、日々鍛錬して、一歩上を目指す。そんな生き方が自分の身体を通して行われるようになる。
面白いことに、この二つの歯車が噛み合いだすとどんどん相乗効果が発揮されるようになり、食べものの消化吸収のスピードと、仕事や勉強の能率のスピードがどんどん上がっていく。一日を二度、三度と生きる。まるでSFのように、今日も一日を翔ける。
石塚 とも
石塚 とも氏 東京都生まれ、慶応大学文学部卒。大手出版社勤務を経てフリーに。2001年、品田雄吉賞を受賞し、映画評論家として活動開始。 2006年、ローフードを推奨する健康法「ナチュラル・ハイジーン」と出会い、体重10キロ減を初めとしてさまざまな心身の変革を体験。ローフードが持つ科学的、社会的、人文学的な魅力に魅せられ、研究を重ねる。書籍、講演、ブログを通じて、ローな自分と世界に起こるさまざまな変化を発信し続ける。 著書に『ローフード 私をキレイにした不思議な食べもの』など。 |