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いつもの道で

【Vol.32】歴史を刻む木

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 大通りを歩きながら、中央分離帯に植えられた木々、街路樹として歩道に植えられたイチョウの木々を眺める。今にも空に届きそうだ。冬のあいだに葉は散ってしまったから、今はどの木もはだかんぼう。緑の葉がそよぐのは、もう少し先になりそうだ。

 この木たち・・・。いったいどれほどの時間、行き交う人々や車を見つめてきたのだろうか。以前から近くに住む知り合いに聞いてみた。

 「約30年前」だそうだ。小学校に通っていた子どもも、今や立派に働く大人になっている。立ち並ぶカフェやレストランといった飲食店、雑貨屋や美容室、クリニックも今とは違う姿だったかもしれない。車のデザイン、人々のファッションの変化など、流行りの移り変わりも街路樹は見届けてきたのだろう。

 ヨーロッパでは、古い建物ほど価値があるという。それは、昔の人々の息づかい、歴史を感じることができるから。

 日本ではアパートを借りる際、新築物件のほうが高いが、ある番組で紹介されていた街では、石造りの古いアパートほど家賃が高くそこに住むのがステータスなのだと言う。確かに、いにしえ人々が、自分と同じ景色を見ていたのだろうか、この空間で当時の生活を送っていたのだろうか・・・と考えると、得も知れぬ感動に包まれる。

 毎日変わらずにそこにある木だが、実は建物と同じように歴史とそこに生きる人々の息づかいを刻んでいるのだ。四季折々の姿にばかり目がいきがちだが、それ以上に私たちを楽しませてくれるものがある。

 40年、50年、100年と経ったとき、この大通りの木はどうなっているだろう。そばを通る度、過去、現在、そして未来に静かに思いを馳せよう。

宮崎美里

- いつもの道で - 2010年4月発刊 Vol.32

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