新型コロナウイルス感染拡大が引き起こした人災。マスクの買い占めに始まり、感染者や、その治療に励む医療従事者への誹謗中傷など、枚挙に暇がありません。それらを「知恵や感受性の欠如が招いた惨事」と言う野村隆哉氏。ウイルス除菌に効果があると注目を集める「竹酢液」の生みの親である野村氏に、その誕生秘話や効用、くわえてニューノーマルを生きるべく必要な術について、話を聞いてみました。
野村隆哉研究所
野村 隆哉(のむら たかや)
1939年生まれ。京都大学農学部林学科卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程中退。京都大学木質科学研究所助手。京都大学退官後、株式会社野村隆哉研究所、アトリエ・オータン設立。専門分野は木材物理学、木文学。木工作家。木のオモチャ作りもおこなう。朝日現代クラフト、旭川美術館招待作家。グッドデザイン選定、京都府新伝統産業認定。楽器用材研究会主宰。著作として『木のおもちゃ考』『木のひみつ』などがある。
主なものだけで33種類もの成分「複雑系」こそが竹酢液の可能性
――「竹酢液」の普及に関わり始めたのは、いつごろのことでしょうか?
野村 30年前のことです。製炭業を始めたという人物が「竹炭を作りたい」と、私を訪ねてきたからです。当時私は、京都大学木質科学研究所の教員で、基礎研究が「竹」でした。どうして竹はあんなに成長が早いのか。その命題に物理学、化学、生物学、形態学、生態学など、すべての科学的手法を用いてアプローチしました。
もともと彼らは「バーベキュー燃料として竹炭を売りたい」と話していました。しかし、すでに木炭が存在するから、それでは商売にならないと助言しました。竹炭と、その生成過程で生まれる副産物である竹酢液の、他に類のない機能を研究して、商品化すべきだと伝え、また私自身も竹炭の研究を始めました。カーボン研究は私の専門外なので、群馬大学名誉教授の大谷杉郎先生に教えを請いました。
――なぜ、そこまでして竹炭に肩入れしたのでしょうか?
野村 私の専門は林学です。竹かご等の生活雑貨は輸入竹材やプラスチック製品に取って代わられ、またタケノコも輸入品が横行、日本の竹林は存在価値を失っていました。今や日本における放置竹林の広さは、なんと55万ヘクタールにも及びます。活用されない竹林を有効活用したい。竹炭と竹酢液がその起爆剤になると考えたのです。
私は「日本竹炭竹酢液協会」を立ち上げて、研究の成果、竹炭と竹酢液の機能を民間に伝えました。それが当時は国立大学という公の場における、公人としての私の務めと考えたからです。
――竹炭と竹酢液には、どのような機能が備わっているのでしょうか?
野村 まず竹炭は、木炭よりも多孔質(表面に小さい穴がたくさん空いている)で、消臭や調湿効果、水質や土壌を浄化する機能があります。しかし竹炭以上に多機能なのが、竹炭を焼く過程で生成される竹酢液でした。私は、その機能の分析に力を入れてきました。
竹炭を作るべく竹を加熱すると、竹に含まれる数%の抽出成分が消失したあとに、竹の主要成分が熱分解を始め、煙として出てきます。この分解生成物に含まれる水蒸気が、煙突を抜けるときに冷却され、液体の水になる際に、他の熱分解生成物が溶け込んで、茶褐色、しかも燻煙臭の強い留出液が生成されます。これが竹酢液で、90%以上を水が占めます。主成分は酢酸で、その他、アルコール類、フェノール類、アルデヒド類など、主な成分で33種類が含まれます。この成分の「複雑系」こそが、竹酢液の大きな可能性です。
――竹酢液の「複雑系」には、どんな可能性が秘められているのですか?
野村 私は竹酢液の機能・成分分析と並行して、炭焼きに従事する人に、竹酢液の効用を聞きました。「霧吹きで部屋のなかに噴射すると、消臭効果がある」「足の水虫に塗ったら治った」「皮膚病に効く」「傷口に塗ると治った」「糖尿病の治療に使っている」など、実にさまざまな用途があったのです。
――なんと竹酢液は、糖尿病にまで効いてしまうのですか?
野村 糖尿病は発症原因が多岐にわたり、原因特定が困難な病気ですが、原因のひとつに糖尿病の患者はインスリン分泌量が少ないことが挙げられます。
ウイルスを構成するタンパク質竹酢液はそのD N Aを不能にする
竹酢液にはクレゾールという成分が含まれています。微量のクレゾールを飲むことで、インスリンの分泌量が増加し、糖尿病の予防に効果があることはわかっているようです。
他にも竹酢液は防腐・抗菌効果がある酢酸、蟻酸、消毒・殺菌能力をもったフェノール類、抗酸化作用・還元力が強いカテコールなどの成分を絶妙の割合で含みます。またクレゾールには、消毒効果もあり、「足の水虫が治った」「皮膚病に効く」「傷口に塗ると治った」という体験談は、これらの成分が寄与している可能性が考えられます。
――そして、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、竹酢液の消毒・除菌効果が注目を浴びています。
野村 消毒・除菌に関しては、竹酢液中の酢酸、フェノール、クレゾールといった成分の効果もあります。
加えて、消毒・除菌用のエチルアルコール(エタノール)と竹酢液を比較します。エタノール水溶液を手にプッシュすると、エタノールと水からなる二層の膜が細菌やウイルスを包み込み、タンパク質のD N Aを機能させなくします。こうすることで、ウイルスはその構造がほとんどタンパク質から成り立っていますから、これを変質させることでウイルスの機能を停止させ、人間の身体の細胞が守られるのです。ですが、エタノールは70%の水溶液が一番効果的とされていますから、10%ではあまり効果がありません。
ところが、竹酢液は主要成分の含有量がわずか10%しか含まれていないうえ、この10%中の主要成分が酢酸であるにもかかわらず、タンパク質に対する変性効果はエタノールの同濃度のものと比べても抜群です。
竹酢液については、卵を使った実験で実証してみます(下の写真)。卵白に竹酢液を加えると、ほら、凝固してしまいます。これは竹酢液がタンパク質を変性、変容させる働きを持つことを示します。エタノール同様、タンパク質のD N Aを機能させなくします。
――消毒に加え、傷口や糖尿病に効くのに、なぜ民間の病院で処方されないのですか?
野村 竹酢液は「複雑系」です。主な成分だけで33、厳密に分析すれば約100以上の成分だけでなく、反応性に富んだラジカルと呼ばれる成分が存在します。もちろん成分ごとに効用はありますが、どちらかというと、それらの成分が総合的に身体に作用して、傷口や病気に効果を与えるといえます。
それと比較して、病院で処方される抗生物質は単一成分です。また単一成分の抗生物質を混ぜることはあっても、複雑系の抗生物質は存在しません。
そして現在の自然科学の主流は「要素還元論」。複雑な事象を、まずは分解して考える。複雑系である竹酢液の成分をひとつずつ研究することはあっても、竹酢液の複雑系自体が持つ機能は研究しない。自然科学では、竹酢液は異端の存在なのです。
――ウイルスの除菌、殺菌効果で、いま注目を浴びる竹酢液。普及は、まだまだこれからなのですね。
野村 「日本竹炭竹酢液協会」協会員を中心に、竹酢液を商品化する業者は増えました。しかし医療従事者や自然科学研究者の関心が低く、たしかに認知度は高くない現実があります。
街の都市化が奪う、知恵を育む機会
今こそ知性教育を見直すとき
私はアフリカでエボラ出血熱が流行した際、竹酢液を「国境なき医師団日本」に送りました。竹酢液にはウイルスの機能をなくす可能性がある、と自信があったからです。しかし封も開けずに、そのまま送り返されてきました。
宮崎県で飼育牛に口蹄疫の感染が確認されたときも、竹酢液の活用を提言しました。竹酢液のプールに牛を入れて消毒すれば、感染を恐れて、大量の牛を殺処分する必要もないからです。
鳥インフルエンザの問題が持ち上がった際も、1日に数回、鶏舎の鶏に竹酢液を噴射することを提案しました。でも多くの場合は、牛の口蹄疫と同様に、鶏の殺処分がおこなわれました。
なぜ竹酢液の可能性を試すこともなく、私たちの食糧となって殺される命を、せめて彼らが生きているあいだ、大切にしようという考えを持たないのか。私にはまったく理解できません。
――自然由来の竹酢液で生命を守るという考えは、林学を極められた野村先生の人生が滲んでいるように思えます。なぜ林学を専攻されたのですか?
野村 本当はアルベルト・シュヴァイツァーのような医者になりたかった。神学者、哲学者でもあり、アフリカは赤道直下の国・ガボンでの医療活動に人生を捧げた人です。でも医学部を受験して落ちたので、農学部で林学を専攻すると決めました。幼少期から、とにかく自然が大好きだったんです。
今も私は、山々に囲まれた豊かな自然のなかで暮らしています。「オータン」という木のおもちゃを製造・販売する仕事も兼業していて、そのアトリエもあり、ときには家族連れも来訪します。しかし、遊び方を知らない親子もいて、将来を不安に思うことがあります。
――どう不安に思うのでしょう?
野村 街から森や田畑がなくなって、都市化していく。高層マンション在住なら、隣人も知らずに育ち、親から「外は危ないから、家で遊びなさい」とも言われかねない時代。昔の子どものように野原を駆け回り、友達と交わって、生きた人間関係を得ることも難しい。私たちは自然のものも含め、いろいろなものとの出会いや触れ合いを通して、知恵を身につけていくのです。
都市というバーチャルリアリティー(仮想空間)に育った親子が、私の作った木のおもちゃを前に、どう遊んだらよいのかわからずに途方に暮れている様子を見ると、現代人がいかに自然との触れ合いをなくしてしまっているかがわかります。人間の感性は3歳で完成するといわれます。この大切な感性を育てる環境や教育の場は否定され、知性教育を押しつけられますが、暗記した「知識」ばかりが増え、この知識を五感、五体で感じ取るという「知恵」にする行為が否定されてしまっているため、知恵に乏しい人が増えています。
今の自然科学は、猛スピードで進化しています。nm (1mの10億分の1)の大きさのウイルスの遺伝子の、何十万の文字列も解析できてしまいます。
コロナに関して、テレビやS N Sの情報に惑わされず、今の科学でわかっていることをみずから勉強し、理解する努力をすることで各自が事実を明確に把握し、いたずらにパニックに陥らないようにすべきです。知識を得て、知恵にすることが大切でしょう。得た情報を生かす力が、試されています。