前回、前々回と2回に渡り、動物性の食材を摂取するリスクと植物性の食材から生きるために必要な栄養素を充分かつ合理的に得られると書きました。一般の大人の食事については納得していただけても、妊娠・授乳期・幼児期・成長期については栄養が不十分になるのではないかとのご意見を頂戴します。質問が多く、大切な内容ですから、今号から数回に渡り、前述の時期をPBWF(プラントベースホールフード:植物性の食材をなるべく精製加工することなく食べる)で過ごす重要性について書きます。子どもの成長において大切な時期のテーマですので必要とされている世代の方がおられたらシェアしていただければと思います。
本題に入る前にこれからお伝えする情報の元となる『子どものためのプラントベースホールフード食生活ガイド』について説明します。このガイドブックは米国認定非営利団体「ザ・プラントリシャン・プロジェクト」が2018年に著作・制作したものです。この団体は医療従事者と医療を受けるすべての方のためにPBWFの学術的に裏付けされた情報の提供、イベント企画と開催などをおこなっています。団体の活動の軸となる行事「PBNHC(プラントベースニュートリションヘルスケアカンファレンス)」は毎年9月にアメリカでおこなわれます。読者の皆さんがこの冊子(9月号)を手にされるころには私も学会に出席し新しい情報と刺激を獲得していると思います。
「プラントリシャン」とは、プラント(植物)、ニュートリション(栄養)、フィジシャン(医者)からなる造語でPBWFの栄養学であらゆる病気の予防と治療をおこなう医療関係者という意味です。私は「ザ・プラントリシャン・プロジェクト」の活動に強く共感し、健康の維持向上と疾患の根治が可能である食事法とライフスタイルを日本にも広めたいと考え、執筆や講演活動、お手本となる飲食店の運営などをおこなってきました。日本の医療関係者と一般の方にPBWFの食生活について正しい情報を伝え、拡散する日本支部を作りたいという私の強い思いを評価していただき、団体から全面的な協力を得て、現在は「NPO法人プラントリシャンJAPAN」の立ち上げ準備を進めています。
PBWFを妊娠期から成長期にかけて取り入れることを検討されている方は、なによりこの食事法が子ども達にとって安全で健康的かどうかを知りたいと思います。詳しい説明に入る前にあまり知られていない一般的なアメリカの食事(Standard American Diet SAD)を摂っている子ども達の深刻なデータをいくつかご紹介します。
◆動脈硬化が幼少期に始まり心臓病が子どもに珍しくない病気になっている。
◆果物と野菜を摂取することの重要性が知られているのに、若年層の半数は果物と野菜をほとんど食べていない。
◆2000年以降に生まれた子どもの3人に1人は生涯の間に2型糖尿病と診断されるという試算がある。
◆肥満児は肥満の大人になりやすい。6歳児で肥満である場合50%、ティーンで肥満の場合は80%が肥満の成人になる危険がある。
◆子どもも含めたアメリカ人口の3%以下しか、推奨最低摂取量の食物繊維を摂取していない。(食物繊維は植物性の食品にしか含まれていません)
◆生まれる前(子宮の中にいるとき)から味や食物の好き嫌いが始まっている。
これらのエビデンスに驚かれたでしょうか? PBWFはいつから始めても遅いということはありませんが、早く始めるほど子どもの将来にとって有益なことは間違いありません。