父の犬がガンになった。すでに17歳(人間でいうと85歳)という高齢、しかも、甘やかしまくりの父が砂糖でも加工食でも無制限に与えてしまう食生活なのに、ここまで病気一つせずにきたのだから、立派というべきだろう。理想体重の1・5倍の肥満度(ダルメシアンだが犬というより牛に見える)、内向的な性格で、一瞬たりとも父から離れると寂しがるのでペット・ホテルには絶対預けられない依存犬(そして、父もそんな犬をどこにも手離せない)ではあるが。
そんなワンちゃんが手術を受けた後、胴体全体をすっぽり覆う筒型の包帯を巻かれている。手術の後の浸出液が出続けているため、おしめのようなパッドをあてて、包帯で押さえているのだ。においも結構強い。そんな大型犬のパッドを、70を越えた父と60を越えたハウスキーパーさんが1日1回、1時間かけて換える
(犬の老々介護?)。放射線治療も受けている。終わった後は、かなり体力を消耗するようで、階段を上れない。
そんな犬に、「食べないと体力つかない」といって、父はさらにご馳走を与えようとする。朝からジュース断食で体調整えている娘の健康法とはえらい違い。こっちから見ていると、そんなに消化に負担がかかるものばっかり与えたら体内の老廃物だって止まらないだろうよとはらはらさせられたものだ。
しかし……。数日もすると、「それはそれでいいじゃん」という気持ちがふわっとこみあげてきて、この一件は私の中で終了してしまった……。
ローフードを食べて健康になって、次にすることはローフードを周囲の人にお伝えすること……では、私の場合、なかった。どんな食生活、どんな生き方、どんな価値観にも裁定を下さないこと。ローを始めた頃からイメージしていた心の動きが、実際に起こり始めている。
私は私の人生を生き切って、天から課された宿題には取り組んで、少しずつ余った時間を遊びに使えるようになり、「満たされる」という感覚を身体で知り、肩の力が抜けてくる。そうすると、自分と違う行き方、価値観であっても、それに反応するセンサーみたいのがそぎ落とされてしまうというか……、反応したくてもできなくなってくるのである。
父も犬も、砂糖や加工食品(父の場合はアルコールも)を代謝しきれないものが詰まったお腹を抱えて生きている。でも、その姿からだって、私は、笑いや、この世界に対する肯定を見出すことができる。これができると、ホント、人生、怖いものはないのだ。父に腕枕してもらって昼寝する犬の姿を写真に撮ったら、なんだか、とっても温かい写真が撮れてしまった。
「だんだんいいことしか起こらなくなる」ってそういうこと? 「らくなちゅらる」ももしかして同じ意味ですか? 中川社長!
石塚 とも
石塚 とも氏 東京都生まれ、慶応大学文学部卒。大手出版社勤務を経てフリーに。2001年、品田雄吉賞を受賞し、映画評論家として活動開始。 2006年、ローフードを推奨する健康法「ナチュラル・ハイジーン」と出会い、体重10キロ減を初めとしてさまざまな心身の変革を体験。ローフードが持つ科学的、社会的、人文学的な魅力に魅せられ、研究を重ねる。書籍、講演、ブログを通じて、ローな自分と世界に起こるさまざまな変化を発信し続ける。 著書に『ローフード 私をキレイにした不思議な食べもの』など。 |