プレマシャンティ®で、月替わりセットでお届けしている「気合豆腐」。インパクトのある名前と、それ以上に印象深い味と食感で、毎月ファンが増えています。気合豆腐を作るのは、気合豆腐 埼玉屋 店主の新井弘幸さん。実は新井さん、もともとは豆腐屋ではなく蕎麦屋を目指していたそうです。そこから気合豆腐を生み出すことになったきっかけ、そして日々の豆腐作りにかける想いを伺いました。
昨年11月に開催した、気合豆腐を使った手作りがんもどき教室にて。新井さんのお話や教室での手さばきかに、まさに「気合」が感じられる
豆腐屋を始めたのは祖父で、私は三代目です。祖父は「埼玉屋」という豆腐屋で修行して、のれん分けしてもらいました。父も豆腐屋を継いだのですが、41歳のときに他界して、そこからは母が引き継いでいました。実は私は、もともと豆腐屋より蕎麦屋になりたくて、浅草の並木藪蕎麦という蕎麦屋で5年間、修行をしていたんです。豆腐屋は非常に朝が早いですし、長時間労働です。今は慣れましたが、若いころはそれが嫌だったんですね。ところが、私が23歳のときに祖父が他界しました。その一週間くらい前に、祖父から「お前が継いでくれないか」と泣きながら言われたのがこたえて、まだ自分は若いし、10年くらいは祖父の想いを叶えてあげても良いかもしれないと思い、豆腐屋で働き始めたんです。最初は母の下で働いていたのですが、10年くらい経ったころに、母から「お前がやりなさい」と言われました。そのときに蕎麦屋をやることも考えたのですが、結婚して子どもが二人いましたし、だんだん仕事が好きになってきていて、自分でやることで、もっと楽しくできるかもしれない、もっとおいしい豆腐を作れるかもしれないと思い、豆腐屋を続けることを決めました。
「気合豆腐」という名前をつけたのはそのころで、20年ほど前です。これは当時、自分に気合を入れる意味もあって、毎朝インターネットの掲示板に「今日も気合入れて豆腐作ります」と書いていたことがきっかけです。また、「埼玉屋」という豆腐屋がほかにもあって、自分が一生懸命作る豆腐を区別したいという想いもありました。しかし、そこからが試行錯誤の連続でした。そのころは売上が落ちていて、普通に豆腐を作るのでは、町の豆腐屋が生き残るのは難しいと思っていました。自分なりのおいしい豆腐をどう作ったら良いのか、誰も教えてくれる人がいない。いろいろな人の話を聞いたり、情報を集めたりしましたが、なかなかうまくいきません。そうやって4~5年経ったころに、豆乳を固めて豆腐を作るのに、「にがり」だけを使ったほうがおいしいというのがわかったんです。にがりは伝統的に豆腐作りに使われていたものですが、当時はにがり以外の凝固剤を使うのが一般的でした。
そんなとき、ちょうど普及し始めていたインターネットを通じて、師匠といえる人と出会いました。その人がいろいろな話を聞かせてくれたおかげで、にがりを使っておいしい豆腐を作る方法がわかってきました。とはいえ全部を教えてもらったわけではありません。仕事場を見せてほしいと頼んでも「お前には見せない」と言われました。後になって、「お前に見せたら全部わかってしまうし、みんなもって行かれるだろう」と言われ、それだけ自分を買ってくれていたんだなと感じました。見せるのは簡単ですが、見せないことで教わることもあると思います。そうやって、今の気合豆腐につながるヒントをもらったんだと思います。
それでもすぐにうまくいったわけではありません。作っては捨てを繰り返し、うまくできたときだけ販売する。お客さんが来てくれても売れないこともありました。安定して販売できるまでには、さらに4~5年がかかりましたね。そこまで続けられたのは、私が人のやらないことをやるのが好きだからだと思います。普通の人が好きなものより、大豆マニアのような、大豆が大好きな人がおいしいといってくれるものを作りたいと思っています。
当時、気合豆腐のような濃い豆乳や豆腐を作っているところはほかにありませんでした。豆乳が濃厚で粘度が高いほど、にがりが混ざりにくくなるので、普通は水で薄めて粘度を落とします。でも、気合豆腐では水を入れず、味も落とさずに粘度を落とすやり方です。普通の豆腐の2~3倍時間がかかっていると思いますが、そういうものを作るほうが自分も楽しいですし、買った人も喜んでくれるので勇気づけられています。
今も、もっと楽しくやろうと、日々研究です。消泡剤という添加物を使わない豆乳を作ったのもそのひとつです。これは、合成添加物でアレルギー症状が出るという人の話を聞いて、やってみようと思いました。難しいですが、できることはわかっていました。消泡剤を使う豆乳はねっとりしたおいしさがありますが、消泡剤を使わないとまた違った食感のおいしい豆乳ができ、おもしろいんです。
原料を知ることも大切だと思います。腰を痛めてしまい今は難しいのですが、昔は大豆農家さんを手伝ったり、自分で畑を借りたりもしていました。大豆がどのように作られているかを知ると、汚れや虫食いも気にならなくなります。多少見た目が悪くても、虫が食べるほどおいしいんだと思えますし、そういった原料でこそおいしく豆腐を作るのが豆腐屋の仕事だと思えます。
最近は、豆腐作りのほかに、豆腐や大豆に関連したさまざまなワークショップを開催しています。今後、もっと展開できると良いなと思っています。大豆農家さんから、うちの大豆を使って豆腐を作ってくださいといった話などもあると嬉しいですね。