この子を前にして

あけましておめでとうございます！　今お腹にいる赤ちゃんは、次の新年には自分の足で立っているかもしれません。松の内に間に合う人はお正月の抱負として、そうでない人は２月頭の立春に、今の自分の念頭を書き残しておいたら面白いかもですよ。産む前と産んだ後で大きく変わります。産んだ後は振り返る機会も、記憶も、いつの間にやらなくなっているかもしれない……。

「過去に戻るとしたら、いつに戻りたいか」というテーマについて、子どものいる男性から聞かされる機会があります。男性読者が多いＳＦ短編のいくつかに、そういうモチーフがあるからかな～と予想。あと、出産を経た女性は、そういう設定そのものを、多くは思いつかなくもなるからかなぁ、と思っています。

これまで私が聞いた範囲では、「過去に戻るとしたら」の設定が好きな男性が、子どもを持ってから言うことの傾向は、大まかには同じで、それは「それを考える意味がなくなった」ということです。「過去に戻るとしたら」を具体的に考えていくと、以前は自分が〇〇だったとき、と自分史を遡って自分のなかだけで完結したわけですが、子どもを持つと、子どもがいない人生が考えられない、だからその前に遡ることができない、というふうに変わるようなのですね。しょせん設定だけの話なので、自分が子どもを持つという前提で遡ってみれば……と思うのですけど、自分が過去に遡ると、今目の前にいるこの子どもが産まれないかもしれない。だったらその前に遡れない、そして自分の子どもが産まれてからだと、やり直しても今の自分と大差がないので、その設定でなにかを思い巡らす意味がなくなるんだそうです。

子どもを産めない男性にとっても人生が不可逆になる。子どもを持つってすごいですよね？

自然の力を借りたい

実際に出産した女性については、さらに大きな違いがあります。わたし自身、出産の前後で、大きな断絶があります。出産が自分も産み直す、生まれ変わる機会なのは間違いがなくて、子どもを産んだ女性は、脳そのものが変わるのだと発見されて久しいです。ホルモンのシャワーを浴びて妊娠中から変わっていますが、それは、今体感されてますよね。これからも変わります。

忙しい子育て中、ロマンティックに「過去に戻るとしたら」をかみしめられる母親はそう存在しないと思います。でも、いろいろ含めて、人生の主役をいったん明け渡して子どもを優先する、その時間に文句なしに入りやすいのは、ホルモンのシャワーがあり、脳が変わっているおかげかもしれないです。最近も、無痛（和痛）分娩が増えている、との現場の実感を、助産師さんから聞きました。お腹を痛めて産むのが尊いとか雰囲気的な話ではなく、出産において大量に分泌されるホルモンを浴びて脳が変わることが、プラスになる側面があるのだと思っています。現在の日本における子育ては、まだ親密で、わたしたちはためらいなく、子どもに添い寝します。医学的に和痛分娩を選択する場合でなければ、わたしはできるだけ自然に産むことをおすすめします。なぜならそのホルモンの力において、わたしたちは忘れるからです。痛かった記憶なんて速攻忘れる。ホルモンの力を借りなかった無痛分娩のほうが、いつまでも痛いのだと、両方やってる人も言いました。自然の力を、借りましょう。