今号では、何としても伝えなければならない嬉しいニュースがあります。すでに新聞やテレビなどのニュースでご存知の方も多いと思いますが、今年の8月1日、不発の子爆弾が深刻な被害を生むクラスター(集束)爆弾の使用や製造を禁じる条約(通称:オスロ条約)が発効しました。クラスター爆弾は、集束爆弾とも呼ばれ、1つの親爆弾の中に数個から数百個の子弾が搭載されており、親爆弾の分解により子弾が空中で広範囲に散布されます。プレマ株式会社様にご支援いただき進めているラオスでの不発弾撤去も、このクラスター爆弾の不発弾がほとんどで、落とされてから30年以上経った今でも、ラオスでは多くの地域が汚染され、被害が出ています。私がいるカンボジアでも、ベトナム戦争中に落とされたものが残っていますし、1991年の湾岸戦争、1999年のNATO軍によるコソヴォ空爆、2001年のアフガニスタン攻撃、2003年のイラク戦争でもクラスター爆弾が使われ、今でもその不発弾による被害が絶えません。とにかく広範囲にばらまくことになるこの爆弾は、ターゲットを兵士だけに絞ることができず、被害者の95%が民間人で、その大半が子どもであると、犠牲者支援をしているNGO「ハンディキャップ・インターナショナル」は報告しています。この非人道兵器を禁止する条約が、8月1日、ついに発効したのです。
この条約成立にむけての交渉は、もちろん非常に難しいと思われてきました。核兵器などのような大量破壊兵器ではなく、今起きている戦争、紛争でも繰り返し使われている通常兵器であるクラスター爆弾は、兵器そのものではなく、使用の方法が問題だとされてきたからです。しかし、今回の条約の成立過程において、対人地雷全面禁止条約(通称:オタワ条約)の経験が生かされました。それまで条約交渉を行う際は、全加盟国が賛同しないと合意できないという全会一致方式に阻まれ、一カ国でも反対すれば成立しなかった問題を、オタワ条約では、オタワプロセスという賛成する国だけで交渉を進める新たな枠組みで成立させた経緯がありました。そこには、世界規模のNGOネットワークであるICBL(地雷廃絶国際キャンペーン)が大きく関わり、その功績によって、ICBLは1997年にノーベル平和賞を受賞しています。受賞時のスピーチで、共同代表を務めたジョディ・ウィリアムズは、「わたしたちこそ、スーパーパワーだ」と語りましたが、再びそのスーパーパワーが示される時がきました。クラスター爆弾禁止条約の交渉の過程で、ICBLと同じような役割を果たしたのはクラスター兵器連合(CMC)です。こうしたNGOの活動によって、一般の人たちの世論が喚起され、クラスター爆弾が、非人道兵器であることが認識されるようになったのです。ウィリアムズの、?スーパーパワーは私たち?という言葉は、行動する市民が、世界を動かしたことを意味しています。世界各地の紛争の現場で、被害者に寄り添ってきたNGOや、地雷や不発弾撤去の現場で過酷な作業を経験してきたNGOが、これまであまりに遠かった、非人道兵器の悲惨な被害と、条約交渉の場とを結びつけたのです。なかなか伝えられることのなかったクラスター爆弾の被害者の声や、実際の非人道兵器の悲惨な現状が伝えられることで、クラスター爆弾そのものを禁止する声が高まってきたのです。問題は、誰かがそれを問題だと言い続け、多くの人に認識されないと、本当の「問題」とならないのです。結局、政府の代表者、政治家たちを動かしたのは、一般の多くの人たちに、クラスター爆弾が、対人地雷と同じように非人道的な兵器であると認識されたからでした。そう、スーパーパワーは、私たち一人一人なのです。
成立した条約は、まだ完全なものではありません。不発弾率が極めて低い厳しい規格に合った新型爆弾は規制から外れたほか、大量のクラスター爆弾を保有する米国、ロシア、中国は未加盟のままで、加盟国の拡大が当面の大きな課題となります。それでも重要なことは、私たち一人一人が、関心を持ち続け、考えて、行動し続けていくことにあります。条約成立が終わりではありません。締約国となった日本には、除去支援だけでなく、被害者支援もまた義務とされています。世界を動かすのは、私たち。世界を創るのも、私たちです。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 |