NPO法人テラ・ルネッサンスは、設立当時からカンボジアの地雷撤去団体への資金提供を続けてきました。果たしてどこまでカンボジアの地雷撤去は進み、すべての地雷が撤去されるにはあと何年かかるのでしょうか。

　1960年代後半のベトナム戦争に巻き込まれて以来、約30年以上におよぶ戦争状態が続いたカンボジアで使われた地雷の数は、推定400万～600万個と言われます。カンボジアは、『地雷の博物館』と言われるほど、使われた地雷の種類も多様で、アメリカ、旧ソ連、中国、ベトナム、タイなどで製造された地雷が使われました。地雷撤去では、こうした多種多様な地雷だけでなく、不発弾などの戦争残存物も撤去しなければいけません。ベトナム戦争中に米軍の空爆で使われたクラスター爆弾の不発弾や、第2次世界大戦中に旧日本軍がインドシナ進駐で使用した不発弾も見つかることがあります。

　カンボジアでの地雷＆不発弾犠牲者の数は、2000年まで年間1000人を越えていました。2000年に初めて1000人を切りましたが、2005年までは800人前後の被害者が出続け、被害者の数が減りませんでした。2006年以降は、地雷撤去が進んだこともあり、再び被害者の数は減少し始めました。しかし2009年は244人、そして2010年は、1月～6月の6ヶ月間で、158人の被害者がすでに出ています。つまり、2日に1～2人がまだ地雷と不発弾の被害にあっていることになります。

　さて2010年になって、カンボジア全体の地雷撤去の費用が大きく減少しています。2007～09年までの3年間の年間の地雷＆不発弾撤去総額は、2900～3000万ドルでしたが、今年は2300万ドルにまで減少しているのです。テラ・ルネッサンスの提携する地雷撤去団体MAGでは、特に大きく活動資金が減少しており、昨年の10月以降、シェムリアップにもあった事務所を閉鎖し、半分以上の現地スタッフを解雇しなければなりませんでした。MAGは、これまで地雷被害者や女性などの社会的弱者を積極的に雇用することで、彼らの生活も守ってきました。また、地雷埋設地域の貧困層を訓練して地雷撤去作業員として雇用していたので、まだ地雷の脅威が続いているにもかかわらず、彼らを解雇しなければならなかったのは非常に残念です。

　カンボジアでの地雷撤去費用減少の理由は、まずカンボジアの地雷問題に対する世界的な関心の低下が挙げられます。内戦が完全終結してから10年以上が経ち、大幅な治安回復と都市部での経済発展を達成したカンボジアは、アフガニスタンのようなまだ戦闘の続いている国に比べると、関心が低下してきているのは仕方がないことでもあります。また、今まで大きな撤去活動費を支援してきたドナー国からの資金提供の契約期限が、ちょうど昨年までで切れたことも挙げられます。そして2008年以降の世界的な経済危機も、地雷撤去の活動費のほとんどを海外に依存しているため、大きな影響を受けていると考えられます。

　では、この活動資金が減少しているなかで、カンボジアにおける全ての地雷の撤去は、いつ達成できるのでしょうか？カンボジア地雷対策機関CMAAによれば、カンボジアで地雷＆不発弾に汚染されているとされる場所は、約3000箇所、そして面積は約446万平方キロメートル。カンボジア政府の批准している対人地雷全面禁止条約では、批准してから10年以内に国内にある地雷をすべて撤去することが規定に盛り込まれていますが、10年目の2009年、コロンビアで開催された対人地雷禁止条約第2回再検討会議で、カンボジア政府は2020年までの地雷撤去の延長を申請しました。その2020年までに地雷を全て撤去するのに必要だと考えられている額は、CMAAによれば約3億3000万ドルです。つまり年間約3300万ドルの活動資金が必要で、活動資金が減少している今のままでは、この目標も達成できるかどうか、微妙になっているのです。大幅な地雷撤去の技術的進歩がない限りは、地雷撤去には活動資金が必要で、逆に言えば活動資金さえあれば、後は撤去する技術を持った人や道具は、すでにあるのです。約3億3000万ドルというのは途方もない金額のように思いますが、例えば、日本人1億2000万人が1人3ドル（11月1日現在、1ドル＝82円とすると246円）を出し合えば、カンボジアの地雷をすべて撤去することができるのです。1人1人がお金の使い方を少し変えるだけで、世界を変える可能性もあるのです。

江角泰（えずみ たい)