私には数えきれないほどたくさんの思い出の味があります。今回はプレマで初めて食べたジェラートの味について。のちにプレマで働きたいと思うきっかけにもなった、思い出の味です。
アルゼンチンでの留学を終えて日本へ帰国したばかりの私は、アルゼンチン人と日本人、また多民族で形成されるアルゼンチン社会と、単一民族で「こうあらなければ」という型が存在する日本社会とのギャップに息苦しさを感じていました。なぜ?の連続と、ちゃんと理解し合うことの難しさや淋しさに、私はもう日本人ではなくなってしまった、と思う日々だったのです。
ある休日、気分転換に三条会商店街を散歩し、ふと足が止まったジェラート屋さん。それがプレマルシェ・ジェラテリアでした。笑顔で迎えてくれたスタッフにほっとして、お話をしながらまず驚いたのが種類の豊富さ。動物性のもの(牛乳・卵・蜂蜜など)をまったく使用していないヴィーガンなど、ここにはさまざまな人に開かれた扉があって、入って来た人が当たり前に、違いを気にすることなく食を楽しめる空間なのだなと嬉しくなりました。
私が選んだのは、米のうまみミルクジェラート。お米だけでジェラートを作るという発想に驚き、そのおいしさにさらにびっくりしました。そのときの心がほどけるような感覚、思わず笑みがこぼれたことは今でも忘れません。
プレマにしかない初めて口にした味なのに、どこか懐かしく〝王道〟に感じられたのは、やっぱり私がお米や、お米から生まれたものに親しんできた日本人だからなのでしょう。記憶の糸って不思議だなと思うのですが、ふと、幼いころに手をつないで行ったお祭りのこと、またその神社で振る舞われた、初めて飲んだ甘酒のことが思い出されました。苦手だと感じた甘酒も今では大好き。年を重ねることは好きが増えることでもあるのだ、と自分を育ててくれた人達に感謝しながら、ジェラートが身体に沁みわたるのを感じました。
私は現在、プレマでジェラート製造スタッフとして働いています。素材の見せてくれる表情や美しさ、色に時折うっとりします。その一つひとつが尊く、できあがる新しい味、定番の味、久しぶりの味、久々にかたちを変えて出逢う味、どれもが優しくて好きだなぁ、って思うのです。そして口にした人達が心から笑顔になってくれることを願いつつ、いろんな場所でそれぞれの味の思い出が生まれること、その思い出がふと重なっていくことが愛しい、とも感じる日々です。
プレマルシェ・ジェラテリア
製造チーム
松本 操子
(まつもと みさこ)
自然と動物、子どもが好き。最近再認識した苦手なことはランキング付け。 大切にしていることは「日々生きていることは、かけがえのないことである」ことを忘れてしまわないこと。ときどき熱い日本語教師。