皆さん、苦しいのは苦手ですか? 私は痛いのも、苦しいのも、悲しいのも苦手です。しかし、私には唯一嫌いではない苦しみがあります。それは産みの苦しみです。乗り越えた人にしか見ることの許されない景色があり、味わうことのできない感動があるからです。
話す、歌う、写真を撮る、文章を書く、短歌を詠むなど、私の好きなことはすべて表現に繋がります。表現する、新しいなにかを創造するときに必ずつき纏うのが産みの苦しみです。私が尊敬する劇作家さんの好きな言葉があります。「0から1をつくるということは、とても難しいことです。けれど、必死にもがき苦しめば、0.1くらいは生み出せるものです。あとはそれを10回繰り返せばいい」。天才だと思っていた劇作家さんも努力の人でした。誰だって0から1をつくるのは苦しいものです。そして大小の差はあれど、すべての人が経験することでしょう。苦しんでつくった1でも、周りから心ない言葉をかけられたり、態度で反発されたりすることもあると思います。そういう嫌な感情に心が乱されてどうしようもないときはこう考えるようにしています。人が作ったものの真似をしたり、少し形を変えたり、批判したりするのは簡単なことです。もちろんそこに産みの苦しみなんて存在しません。しかし、苦しみを経験した自分にしか味わうことのできない感動が必ずあるのです。
カカオレート・ラボを始めてからの1年間はまさに産みの苦しみを経験する期間でした。右も左もわからない飲食業界に飛び込み、当時のスタッフは私しかおらず、オープン日に間に合わせるため連日深夜まで作業をしていました。心身共に限界ギリギリだった私が今日まで走り続けることができたのは、カカオレートを愛してくださる皆様のおかげです。店舗に足を運んでくださった皆様に直接お会いできたときに、死ぬ気でがんばってよかったと心から思いました。自分がつくったもので喜んでくれる人がいる、喜んでくださっているお顔を直接拝見することができる、それがカカオレート・ラボを立ち上げた私にとってなによりも嬉しい瞬間であり、苦しんでよかったと思える瞬間なのです。
皆様のおかげで無事に1周年を迎えることができました。本当にありがとうございます。カカオレート・ラボは今もまだ成長中です。足りないものを少しずつ補っていけるよう、日々精進して参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。
プレマルシェ・カカオレート・ラボ 店長
中川 愛(なかがわ あい)
母校である自由学校の教員を経て、プレマ株式会社に入社。高校生時代に東ティモールと出合い、残酷な歴史を背負いながらも、笑顔が絶えない国民性に感銘を受ける。目標は東ティモールのことを少しでも多くの人に伝えること