一般に、出産を〈場〉によって分けるとすれば、つぎの三とおりのタイプの出産が想定されます。
1. 病院での出産
2.助産院での出産
3.助産師の立ち会う自宅出産
この順序は、専門的なスタッフや設備の充実度の順を示しています。他方、出産の場の自然さという面からみれば、順序はこの逆になります。スタッフや設備の充実は、深刻なトラブルが発生したときに威力を発揮します。出産の場の自然さは、出産そのものの自然さ、容易さに直結します。
専門的なスタッフや設備は、充実していればいるほどよいと考えられがちです。が、それは迷信にすぎません。産科関係のスタッフや設備は、つねに「産科学」という幻想に呪縛されています。産科学は、唯物論的な短絡思考によって人体を強引に操作しようとするものです。操作される人体にとって、それはたいへんな脅威となります。安易な産科的介入は、人体の自然な機能を狂わせ、事態のいっそうの悪化をまねいてしまいます。じっさい、大学病院のように高度な医療技術を誇る施設では、産科的介入に起因するとみられるトラブルの発生頻度が高く、けっして安全とはいえないのです。ハイリスクな出産でないかぎり、はじめからそのような反自然的な医療態勢の場に身をおくべきではありません。通常は、充実した医療施設との連携が確保されていればそれでじゅうぶんなのです。
いっぽう、出産の場の自然さについていえば、それは自然であればあるほどよいにきまっています。してみれば、好ましい出産の場とは、医療施設とのつながりが保たれ、しかもできるだけ自然であるような場ということになるでしょう。三つのタイプのうち、どれがもっとも好ましいか、おのずからあきらかです。ただし、(2)と(3)は、産科的基準にもとづいて途中で(1)へ移されてしまう可能性が多分に(必要以上に)あります。いま仮にそのことを度外視していうならば、もっとも好ましいのは(3)、二番めが(2)、三番めが(1)となります。
もっとも、現実には、このような順位づけをしてみたところで、かならずしもより上位の場から選べるというわけではありません。助産師の立ち会う自宅出産は、たいてい計画の段階で断念せざるをえなくなります。自宅といってもアパートのようなところは出産に向きません。自宅が豪邸であっても、そこまで来てくれる助産師をみつけることができなければそれまでです。自宅をあきらめて助産院で出産しようと思っても、助産院が近辺にあるとはかぎりません。助産院があっても出産をあつかうとはかぎりません。そして近年では、出産をあつかう病院さえも、地域から退場していっているありさまです。このような現状からすれば、より上位の場を選ぼうとするのはあきらめなければならない場合が多いでしょう。
上位の場から選ぶことができなければ、下位の場に決めるしかありません。それでも、病院なら病院のなかから選ぶことができるのなら、意欲的に検討してみるべきです。医師や助産師も十人十色です。なかには意外に寛容な医師だっているかもしれません。そこに望みをたくして、個々に当たってみるとよいでしょう。
具体的にいえば、これだけは譲歩したくないという条項を決めておいて、それを医師なり助産師なりにぶつけてみるのです。わたしなら、その条項を「フリースタイル出産」(自由な姿勢で産むこと)の一点にしぼるでしょう。フリースタイル出産を容認するかどうかで、産婦の主体性を尊重する気が医療者にあるかどうかをほぼ判断することができるからです。産婦の主体性を尊重する気のない医療者とはなにを話し合っても無駄でしょう。
それに、フリースタイル出産さえできれば、分娩がスムーズになるので、陣痛促進剤を投与されたり会陰を切開されたりする機会を大幅に減らすこともできるわけです。
ところで、ここで、お産のほんとうの主役のことを忘れるわけにはゆきません。お産のほんとうの主役—-それは赤ちゃんです。赤ちゃんは、これから生まれようとする当事者ですから、出産のありかたについて自分なりの希望をもたないはずはありません。しかも、霊的存在としての赤ちゃんは、先のなりゆきをあるていど透視することもできます。それゆえ赤ちゃんは、どこでどのようにして生まれるのがよいのかをもっとも適切に判断できる立場にあるといえます。赤ちゃん自身の意向をたしかめることができれば、それが選択の決め手となるでしょう。そうした意味でも、できるだけ早くから赤ちゃんとの霊的な通信回路をひらいておくことが望まれるのです。
さかのまこと
さかのまこと氏 自然哲学者。 慶応義塾大学文学部卒業。東北大学大学院博士課程修了。国語国文学を専攻とし、大学教授等を経歴。プレマ(株)代表中川のインドでの知己であり、常務佐々田の恩師でもある。また、生物学から宗教学にいたるまで幅広い関心領域をもち、夫婦だけで2人の娘のプライベート出産をおこなう。著書に『あなたにもできる自然出産―夫婦で読むお産の知識』等。 |