2012年9月、1年ぶりにラオスへ行って来ました。反政府勢力の活動の活発化で、治安が心配されたシエンクアンも落ち着いていて、政府の関係者やラオスの人たちが、自分の国の将来を良くしようと協力してくれる姿を垣間見ることができました。ただ、それは自分たちの国のことなので、当たり前といえば、当たり前のことです。今回のラオス訪問で、一番考えさせられ、私の心に残っているのは、「いじめは絶対に許さない」という1人の青年に出会ったことでした。
シエンクアンでの不発弾の調査が終わり、首都のビエンチャンに戻ってきて一泊したゲストハウスでのこと。移動で疲れて夕方から部屋で眠ってしまい、起きたのが夜8時30分を回っていました。夕食を食べに行こうとゲストハウスのロビーに降りていきましたが、運が悪いことに外は雨。仕方なくロビーでガイドブックを見ていました。そこへやってきた1人のラオス人の青年。ホテルのスタッフと何やら話していましたが、こちらに気がついて、どうやら日本人だと分かり、話しかけてきました。ちょっと変わった日本人に興味を持ったのか、いろいろと仕事のことを聞いてきます。シエンクアンでの不発弾の調査のことや、カンボジアでの地雷問題の事業のことを話しました。そこで彼は「日本に実は行ったことがある」といいます。東京と横浜。「とても便利なものがたくさんあって、日本は好き」という。「でも、“いじめ”の問題は、理解できないし、どうしても許せない」というようなことをいい始めました。途中から不慣れなラオス語から英語での会話に移っていたなかで、“いじめ”という言葉は、日本語を使ったのに驚きました。かなり日本のことを知っていると思ったのです。カンボジアとラオスでは、学校でのいじめで自殺をしたとか、問題になったとかいうのは、聞いたこともありません。実際に「ラオスでは、そんなものはない」といい切る彼。彼がいうには、「そんなものは許せない」という。「もし可能なら、自分がそのいじめの起きている学校にいって、経験してみたい」とまでいいます。「自分は強いのは分かっているから、いくら集団でいじめても大丈夫だ。それによほど問題だったら、学校なんてやめればいいじゃないか」「先生や親になぜいわないんだ ?」私も小学生の時にいじめの酷いクラスで、いじめを受けた経験があり、先生や親にいっても、解決が難しい状況を説明しましたが、彼は納得がいきません。
今、カンボジアやラオスに来て私が思うのは、小学生の頃は、本当に狭い小さな世界で生きてたなあということ。もちろん辛い日々でしたが、自分が運が良かったのは、他のクラスには助けてくれる友達がいたり、クラス内にも助けてくれる人がいたことです。先生たちも助けてくれましたし、親にも話したので、そういう意味では逃げ場があったのです。カンボジアもラオスも見ていると、子どもたちの間でも無視をしたり、1人の子にいたずらをしたりというのはありますが、それがどんどんエスカレートして、人が自ら命を絶ってしまうところまでは、絶対に行きません。日本の子どもたちとの大きな違いを感じるのは、普段話したり遊んだり、時間を共にしているのは、同じクラスの友達よりも、様々な異なる年齢の人がほとんどです。もしいじめている子どもたちを見れば、年上の子どもや親、先生、近所の人たちは、絶対に放っておきません。もしそうした弱い者いじめをしている子どもたちを見ている傍観者がいれば、年上の人たちに「どうして止めないのか」と、傍観者が怒られてしまうのです。先生たちの権力もまだまだ強く、子どもたちはいうことを聞くのは当たり前。何もかもが違うかも知れませんが、昔の日本も同じような状況だったのではと思います。
実は、こうしたカンボジアやラオスのような社会から、日本の私達が学べることがたくさんあるのではと思っています。ものがあふれ、豊かになるにつれ、無関心になっていった日本の大人たち。自分の国のことではないのに、「絶対に許せない」とまでいい切るラオス人の青年は、“ヌック”と別れ際に名前を教えてくれました。彼のような人間は、ラオスやカンボジアでは決して特別ではありません。それが当たり前なのです。「自分には関係ない」という日本人の“無関心という心の地雷”は、私も含めて、自分で掘り起こして取り除いていく以外に、今のところ効果的な除去方法がありません。日本が本当に平和な国になるために…。
屋根にたくさんの穴のあいた校舎で勉強 するラオス シエンクアン県の中学生たち |
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 NPO法人テラ・ルネッサンス >> Premaラオスプロジェクト >> |