不適切な対応が招く二次障害
前号では、学習障害を持つ次男坊が、同質化を求める日本社会の中で慢性的に抱えていた緊張型頭痛が、シカゴへ留学したとたん消えてしまった、というお話をしました。
東京で電車通学をしながら人の目が気になる度に、「なぜ僕だけを見るんだ!これが僕なんだ!
この僕を認めてください!」と心の中で訴えていた彼。
しかし、この電車通学での出来事は、高校生になってからの話です。言葉によるコミニケーション能力に著しい遅れがみられた彼にとって、自己肯定感をつくるまでの幼少期のプロセスでは、深い霧の中を彷徨う迷子のように不安な毎日を送っていたことでしょう。環境に馴染みきれない心細さと、クラスメートとの会話に入っていけない孤独感を、彼は言語化することもできず、きっと心の内側に悶々としたものを抱え続けていたのだろうと思います。
とはいえ、幸いにも息子は、小学2年生から8年間通ったシュタイナー学園での生活のなかで、二次障害を発症するような状態には至りませんでした。それは、先生や保護者、そして、クラスメートたちが、彼の個性を認め尊重し、深く理解しながら接してくださったお陰です。
二次障害というのは、発達障害に対する周囲の不適切な対応が続いてしまうことにより、二次的に別の障害や症状が現れてしまう、その状態をいいます。
不適切な対応というのは、例えばハワイで暮らしていた当時の息子は、小学校1年生(6歳)の時にこんな経験をしました。
ファンタジーの世界で遊ぶ子どもたち
小学1年生といえば、発達障害の子に限らず、子どもはまだまだ豊かな空想の世界にいていいはずの年齢です。彼の美しいイマジネーションは、見るもの聞くもの触るものに大いに刺激されて、無限に広がり続けるのです。彼のワクワク楽しい興味と好奇心は、それが家の中であれ学校であれ公園であれ、膨らみ続けるのです。
そんな枠組みのない自由な世界を行き来している息子が、毎日学校から泣いて帰ってくるようになりました。授業中先生の話もそっちのけで、ぽかーんとファンタジーの中に没頭していると、突然先生は目の前でパンパンと大きく手を叩き、「アキト、フォーカス!」と、繊細で純粋なハートを一瞬にして破壊するような大きな怒鳴り声で叱られたのです。息子は途端に冷たい現実の世界に引き戻され、何を怒られているのかも理解できないまま、恐怖だけが潜在意識に植え込まれることになるわけです。そんなことが毎日繰り返され、ショッキングな体験はトラウマとなり、根の深い自尊心の欠如へと、強い印象を残して刻まれてしまったのです。
当時の言葉がおぼつかない息子の涙ながらに訴える言葉を要約すると、「先生は僕のことを怒る。僕のことを嫌いなんだ。僕が悪い子だから」ということでした。すぐに私は息子を抱きしめ「あーくんは、悪い子じゃないよ!」と伝えました。
その後、私たち夫婦は学校へ出向き、不適切な担任の対応に抗議しました。そして学習支援のプログラムをお願いすることにしました。
ひょっとしたらこのような出来事は、学校という閉鎖的な社会の中で、先生と生徒との関係性において日常的に行われている事かもしれません。しかし、このような経験の積み重ねが、子どもの情緒に与える影響について、その後の人格形成にどれほど多大な影響を及ぼすことになるかという心理を、教育者や親など支援者たちがもっと学び、理解し実践していく必要性を強く感じます。大人は子どもの表層に現れた問題にばかり、意識を奪われがちですが、深層に隠れている心の声や、全身全霊をかけた魂からの訴えに耳を傾けなければなりません。さまざまな二次障害は、負の感情が蓄積して起こるものなのです。一人ひとりの個性に適した学びを保障し環境を守ること、それが私たち大人の責任であり、役割ではないでしょうか。
ヒプノセラピスト・エッセイスト・女優
宮崎 ますみ(みやざき ますみ)
1968年愛知県生まれ。1984年クラリオンガールに選ばれ、女優として、舞台・映画・TVなど幅広く活躍。1995年結婚を機に渡米。米国で2児の息子を育てながらYOGAに傾倒し自己探求に専念。瞑想を深めていくなかで自己の本質に目覚め、ヒーリングとリーディングを始める。帰国後2005年、乳がんであることを公表。克服後2007年ヒプノセラピストに。同年11月厚生労働大臣より「健康大使」を任命される。自身の経験を活かした講演会活動やヒプノセラピスト養成に取り組んでいる。
ヒプノウーマンSalon『聖母の祈り』 http://salon.hypnowoman.jp
一般社団法人ホールライフクリエーション http://wholelifecreation.com
日本ヒプノセラピーアカデミー・イシス http://jhtaisis.net
日本ヒプノ赤ちゃん協会 http://hypnoakachan.com