子どもの味覚を育てたい
ヒトは雑食だから、なんでも食べられます。だから、目新しいものを食べたがる一方で、なんでも食べることで不利益をこうむらないように、慣れ親しんだ味に執着するそうです。
動物としてのヒトの性質は、妊婦や小さなヒトにはわかりやすく出るのではと感じますよね。妊娠中には、思わぬ味が急に大好きになったり、なつかしい和食味に回帰したり、理由には諸説ありますが、ちょっと変わった事態がおきます。小さい子は、びっくりするくらいいろんな味のものを試せる一方で、ひとつのものしか食べなくなって親を悩ませたりもします。
特定の味を好むって、どういう状況なんでしょうか。甘いものが好き、苦いものは警戒するというのは本能的にあるようですが、味覚は基本的にトレーニングで育つといわれます。
「おこちゃま味」しかわからない困った大人にならないように、子どもの味覚を育てようと思うと、どこから、なにを大切にしたらいいのか……。そう思ったとき、母乳の味から考えること、多いんじゃないかなって思います。
母乳の味はお母さんの食事に左右されるということで、一般に、おっぱいを出す人の食べ物にたいするアドバイスを見かけます。実際、授乳してみると、母の食べたものによって母乳の色が変わります。いちいち味見はしませんでしたが、動物性の強い食事をすると母乳の色が濃くなる、わたしの場合は乳腺が痛み詰まりやすくなる……「血液サラサラ」という表現が、サラサラのおっぱいと濃ゆいおっぱいという、目に見えるかたちとなり大変リアルでした(自然なお産の文脈でいわれる〝おっぱいによい食事〟は栄養失調のもとになるとの批判もあります。個人的には、腸内環境がちゃんとととのえば、失調しないんじゃないかなって思っています)。
かおりたつ羊水
というふうに、子どもの味覚の学習は一般におっぱいから? と思っていたら、妊婦の食事が影響しているのかも、と思える研究を見かけました。
嗅覚のするどさが仕事になっているような人は、羊水のにおいがわかり、たとえば、ニンニクを食べた妊婦、食べていない妊婦が羊水のにおいから区別できるそうです。
味といわれるものの95パーセントは嗅覚によるといわれます。口腔内で味を感じる器官である味蕾が感知できる要素はすくなくて、基本は甘味、酸味、苦味およびかん味の四つ。近年はそこに旨味を加えて五つとすることも多いようですが、せいぜい四つや五つしか感知できる味がないわりには、ヒトの味覚はバリエーションが多い? という不思議の背景にはかおりの要素があるわけですね。
羊水がかおるのなら、羊水に味があることになります。胎児はにおいがわかるといわれています。そもそも胎児はまだ食べないはず、と思うかもしれませんが、味蕾は妊娠初期に形成されるそうです。胎便という、新生児がまず出す便もあります。つまり、胎児は、においがわかる状態で、羊水を飲んで、それで便ができるくらい、食しているということになります。
小さな子どもがいやがるような野菜ジュースなのに、妊娠中にお母さんがそれをよく飲んでいたら、子どもがいやがらない、という実験も見かけたことがあります。風味豊かなものを食べ、風味ゆたかな羊水にする! そうしたら、味覚のレンジの広いお子さんが生まれ、育つかもしれませんね。