ニュースなどで「行政事件」「行政訴訟」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。私は現在、京都弁護士会の行政法に関する委員会の副委員長であり、日本弁護士連合会の行政訴訟センターの委員も務めています。またこれまで、個人的にも、少なくない数の行政事件に代理人として携わってきました。行政事件のなかでも比較的多い類型が、行政機関による行政処分の取消しを求めるものです。今回は、行政処分の取消しを求める方法の一つである「審査請求」についてご紹介します。
行政処分はどんなもの?
行政処分を簡単に説明すると、行政機関が公権力に基づき、直接国民の権利義務を形成するものです。たとえば、運転免許の停止処分、労災保険の給付申請を却下する処分、児童扶養手当の受給資格を喪失させる処分、地方公務員に対する懲戒処分など。ほかにも、世の中には多数の行政処分があります。
多くの場合、行政処分は行政機関により適法におこなわれるはずですが、ときには、事実誤認や誤った法律の解釈に基づいてなされることもあるのです。そのため、行政処分の適法性・妥当性について事後的に検証する制度が必要です。こうした制度を定めるのが、行政不服審査法です。この法律では、行政機関内部において事後的に行政処分の適法性・妥当性を判断する「審査請求」という制度が設けられています。
裁判よりも手軽に利用できる
審査請求というのは、裁判所ではなく行政機関に対して不服申立てをおこない、行政機関内で行政処分の適法性・妥当性が判断される手続きです。
審査請求は、一般に、裁判と比べると手続きが簡易迅速であるといわれます。また、裁判所での裁判は公開されますが、審査請求は非公開なので、プライバシーに関する情報が他人に知られる心配がありません。さらに、訴訟には訴訟費用がかかりますが、審査請求は無料です。このように、審査請求は、裁判所の裁判よりも手軽に利用できる制度設計になっています。
審査請求はどう進むか
審査請求の一般的な手続きでは、まず、行政処分を受けた人が、その処分に不満がある場合、処分を受けてから3カ月以内に審査請求書を提出します。提出先は、行政処分をした行政庁(処分庁)か、審査請求の審査を行う行政庁(審査庁)です。審査庁については、行政処分の通知書に記載されています。
審査請求書の提出後、処分庁から、行政処分をした理由を説明する弁明書という書面が提出されます。これに対し、審査請求人は、反論書や反論の証拠となる資料を提出することができます。こうして書面上のやりとりをした後は、口頭意見陳述という手続きをおこなうことができます。これは、審査請求人と、処分庁の職員と、審理を主催する者(審理員)が集い、審査請求人が意見を陳述する手続です。重要なのは、この機会に、審査請求人が処分庁に対して質問できることです。この質問権をうまく使うことにより、処分庁が行政処分をおこなった根拠を確認することができます。
こうした審理をふまえ、審理員が意見書を作成し、審査庁に提出します。その後、審査庁は、大学教授や弁護士などの専門家で構成される行政不服審査会という専門機関に諮問し、行政不服審査会は意見をまとめて審査庁に答申します。これをふまえて、審査庁が最終的な裁決をします。審査庁は、もともとの行政処分が適法かつ妥当であると判断すれば審査請求を棄却し、行政処分が違法または不当であると判断すれば審査請求を認容して、もともとの行政処分を取り消します。
以上が一般的な審査請求の流れです。次回は、私が実際に代理人として審査請求をおこない、行政処分が取り消された例をご紹介したいと思います。