NPO法人テラ・ルネッサンスでは、2001年よりカンボジアの地雷の問題に取り組んでいます。地雷の問題といえばイコール、カンボジアというぐらい、日本人のなかにはメディアで取り上げられることも多く、たくさんの人たちがイメージを持つようになっているのではないでしょうか?地雷問題の認知度が上がったということからすれば、これでいいことであります。まず問題が多くの人に問題として認識されなければ、その問題がたとえ存在していたとしても、問題とならないからです。禅問答のようですが、問題の認知度を高めること、これは本会が力をいれていることのひとつです。
地雷問題は、多くのメディアが取り上げ、非人道的な『残虐な兵器』、『悪魔の兵器』というイメージを誰もが持つようになりました。特にカンボジアの場合は、日本から比較的近く、直行便がないので近隣諸国で乗換えが必要なものの、実際に飛行機に乗っている時間は6時間ほどで着きます。90年代後半に30年以上続いた内戦は終結し、2000年代に入ってから大幅に治安回復を達成しました。有名な世界遺産アンコールワットをはじめとしたアンコール王朝時代の遺跡群は、見るものを圧倒する迫力と描かれた彫刻の繊細さは観光客を魅了し、日本からも毎年何百万人という観光客が訪れるようになりました。これを読まれている方もカンボジアへ行かれたことがある方がいらっしゃると思います。治安は日本と同じぐらいにまで回復し、近くて訪れやすいカンボジアは、他の未だに武器が蔓延し、紛争が再発しているようなアフガニスタンやイラク、アフリカ諸国よりは、メディアにとっても比較的安全に取材ができる場所です。
ただこうしたメディアを通しての報道には、かなりの偏りがあり、少なくとも日本に住んでいるときに得られる情報で形成された多くの日本人のイメージにあるのは、『地雷があり危ない国』『アンコール・ワットのある国』・・・また昨年2008年におきたタイとの国境にあるプレアヴィヒィア寺院を巡る国境紛争による『危険な国』ということぐらいになります。メディアによる報道は、事実の一部しか放送されませんが、特にテレビの映像は、"事実をすべて伝えている"と思わせてしまう力があります。プレマ株式会社の中川社長も昨年12月にラオスへご一緒させていただいた際に、内戦のまだ収まらない1990年代前半のカンボジアを知っていらっしゃるので、『カンボジアはあまりにも色がつきすぎてしまっている・・・』とあまりに偏ったイメージになってしまったカンボジアをなげいていらっしゃいました。このたび恐縮にもこの『らくなちゅる通信』に寄稿させていただくにあたり、いまカンボジアのバッタンバンにいる身として、メディアでは報道されない違った角度からの生のカンボジアを少しでもお伝えできればと考えております。もちろん私の知っているカンボジアもごく一部なのですが、このカンボジアで今まさに起きている問題、地雷の問題を通して見える世界の問題とくに先進国といわれている日本に住む私たちの問題にリンクできればと考えています。
本会がカンボジアで地雷の問題に取り組む根本の理由は、そこにあると考えています。確かに現場でやっている『プロジェクト』なるものも重要かもしれません。地雷を撤去することも重要です。地雷被害者をサポートすることも重要です。ただ、これらは単なる対処療法にすぎず、根本の問題解決にはなりません。なぜ地雷が埋められるのでしょうか?なぜ私たちと同じ一般市民の人たちが被害に遭うのでしょうか?その地雷はどこで作られたのでしょうか?本当にこれらの問題は遠い国で起こっている、私たちとは関係のないことなのでしょうか?こうした地雷、クラスター爆弾などの不発弾の問題は、目に見えてわかりやすい問題で、世界中で起こっているさまざまな問題の1つのイシューにしか過ぎません。本会では、これらの目に見えてわかりやすい問題に取り組むことで、多くの人々が本会の目指すビジョンである『世界平和=すべての生命が安心して生活できる社会の実現』のために行動を起こすきっかけとなればと考えています。
これから次号以降カンボジアそしてラオスの地雷、クラスター爆弾も含めた不発弾の問題を通して、すべての生命が安心して生活できる社会の実現に向けて、何ができるか一緒に考えていただければ幸いです。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス中学校建設プロジェクトも担当中。 |