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カンボジア地雷除去支援

江角泰 (えずみ たい)

NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。
大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。
現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。

【Vol.52】朝礼で話題になっていた女性

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 先日の朝礼で、現地スタッフのなかで、話題になっていた女性がいました。別に有名な女優さんでも、歌手でもありません。2009年から村落開発支援を実施しているタイ国境のプレア・プット村に住むプカーイ・プルックさんです。非常に厳しい生活を強いられている貧困層の1人ですが、今年はさらに悪いことが重なりました。

 まず昨年からタイ国境沿いの道を中国政府の支援で、中国の企業が拡張整備しています。道幅は以前の倍になり、土を何度も盛って、道路の高さは道路沿いの家の軒下ぐらいになっています。立派な道になりそうです。プレア・プット村にかかる橋も内戦時代に作られたものを残しながら、近くで新しく建設が進んでいます。そのため、道がこの橋のところで少し外れ、ちょうどプカーイ・プルックさんの小さな家があったところが道路になってしまい、プルックさんは家を立ち退きになりました。カンボジア政府や、道路を建設している中国政府から補償があればいいですが、そんなものはなく、唯一の財産であった小さな家とその土地はなくなってしまい、他に住む場所がないので、誰の土地でもない橋のかかるカムリエン川の岸辺に、小屋を建てて生活することになりました。

 その岸辺での生活を始めて数ヶ月経った今年10月のある夜、またも彼女の家族を災難が襲いました。ご存知のように今年のタイやカンボジアでは、大雨が降っており、タイから流れてくるカムリエン川の水が増水しました。そして、ある夜大雨が降り、真夜中の12時頃、一気にプカーイ・プルックさんの家まで水が来たのです。プルックさんの家族は、なんとか川岸の家から土手の上に避難し、僅かな服や家財を草むらに運び出し、難を逃れました。しかし、それから数日間は、草むらの上で寝ることになりました。

 さて、このプカーイ・プルックさんが、なぜ朝礼で話題になっていたかというと、これだけの災難に遭いながらも、村に行くといつも笑顔で、元気いっぱいなのです。それは、2009年に初めて会ってから変わりません。普通の人なら、これだけの災難に遭えば、補償をしてくれない政府を恨んだり、小言を言ってもおかしくありませんが、そんなことはないのです。それが、現地スタッフたちにも、とても不思議だったのです。そのことについてプルックさんに聞くと、こう答えてくれました。「現状に嘆いていても、悲しんでいても、何も変わりません。だからいつも笑顔でいようと決めたのです」。確かにその通りですが、なかなかできるものではありません。自分ならちょっと悪いことが起きれば、すぐに不機嫌になったり、嘆いたりしてしまいます。

 プルックさんの言葉から、2005年に熊本で聞いた、長野オリンピックの最終聖火ランナーで、義足のマラソンランナー、クリス・ムーンの講演の中での言葉を思い出しました。彼はカンボジアでの地雷撤去活動に従事したあと、アフリカのモザンビークで地雷撤去中に触雷し、右手右足を失いました。クリスは講演の中で次のように話していました。「人間は『時としてして起こる不公平な出来事』に出会うことがあります。そしてそんな時でも怒ったりしてはいけない。もし、そのことで他人を害したりしたら、自分の人生自身に対して責任があるのです。しかし地雷原に住む人々には選択の余地がないのです」。そして、カンボジアでの地雷撤去活動中に出会った地雷生存者の例を出して、こう説明していました。「カンボジア人の彼は、地雷に被爆したことによって手足を失い、仕事を失い、治療費を払うために家族が離散してしまいました。すべてを失った人々の深い苦しみは、普通の人なら死んでしまうほどかもしれません。生き残るのが大変なカンボジアでも生き抜いている。それは彼らが出来ると思っていたから。今いったい何を持っているのかが重要で、何を失ったかを考えてみても過去には戻れないし、意味のないことで、これから何が起きるかが重要なのです。彼は障害を克服したから不幸ではないのです。彼は人生をやり直そうとしています。今では家族が小さな事業を持つまでになっています」。

 笑顔は良い人を集めます。愚痴ばかり言っている人よりも、転びながらも何度も立ち上がって精一杯生きている人のほうが、周囲は助けたくなるものです。プルックさんの姿も、多くの共感を現地スタッフたちのなかに生んでいました。自分も彼女に見習って、笑顔と元気を周りの人に振りまいていける人になりたいと思います。

江角泰(えずみ たい)

江角泰(えずみ たい)氏
NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。
大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。
現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。
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- カンボジア地雷除去支援 - 2012年1月発刊 Vol.52

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