封印された母性
年に1度のペースで個人セッションを受けにいらっしゃる貴子さんは、15年ほど前にイギリス人の男性と結婚をして、イギリスへ移住されました。その後、お二人のお子様を授かり、長男バートは現在12歳、長女エマは5歳。
みなが羨むほどの自然豊かな環境で暮らしながらも、貴子さんは、人一倍繊細で集団生活になかなか馴染めないバート君の子育てに、とても深く悩んでいらっしゃいました。バート君は自分を表現することが苦手で、貴子さんはイラっとすることばかり。気がつくと酷く傷つける言葉で彼を責めてしまい、自己嫌悪に陥るという日常の繰り返しでした。時には自分の感情を抑えきれずに手も出てしまい、「罪悪感が自分の体に針金をグルグル巻きにしていて苦しい。自分の力ではどうにもほどけない針金を何とかしたい」とセッションにいらっしゃいました。「子育てがうまくいかない」「子どもを愛せない」「自分を抑えられず手が出てしまう」
そういった悩みを抱えていらっしゃるクライアントさんは少なくありません。そのような方に、私は決まってお伝えすることがあります。「愛せない、と言って苦しんでいらっしゃるあなたは、すでにとても深い愛をお持ちですよ」と。するとハッとしたお顔をされます。実際そうなのです。セッションのなかで、子どもを愛せないという問題の原因を探り、解放し、癒すことで、内なる聖母の愛の泉の蓋が開き、本来持っていた母性が溢れ出てくるのです。本当はとても愛情深いお母さんなのです。
連鎖する育児パターン
貴子さんの場合も同じでした。彼女に年齢退行療法を施すと、見えてきたのは情緒不安定な母親に育てられた幼少期でした。さらに遡れば、貴子さんのお母様もまた、幼少期にヒステリックな母親(貴子さんの祖母)に育てられてきたことが、そもそもの問題の根源でもあったのです。このように代々子育ての負の連鎖が受け継がれていたりします。
貴子さんのお母様は強迫観念を常に抱え、ひとりっ子である貴子さんを過保護に育ててきました。しかも、それは度を越した過保護です。例えば、「道に出ると車にひかれるから、お願いだから家にいてちょうだい」と言われ、幼少期友達との外遊びを許されていませんでした。ほんの少しお腹が痛いと言っただけで大騒ぎをして病院へ連れて行かれ、それ以来言えなくなったり。「あなたは虚弱体質だから」「あれをしちゃダメ、これをしちゃダメ」そんな親からの繰り返される言葉は暗示となり、呪縛となり、言われた通りの状態を大人になってからも見事に現していました。
幼少期に植え込まれた暗示は潜在意識に固定され、8~9歳ごろにクリティカルファクターという意識の膜がかかることによって、様々な感情が突然噴出しないように理性で抑え込みます。傷を負った出来事はトラウマとなり、その感情は未解決のまま潜在意識のなかに居続けて、大人になってからも、生き方全般に影響を与え続けるのです。
貴子さんのセッションでは、まずトラウマとなっている幼少期の出来事を追体験し、そこで植え込まれたネガティブな暗示を、イメージのなかでお母さんと対話しながらポジティブなものに書き換え、未解決だった出来事とそれに伴うインナーチャイルドの感情を解放し癒していきました。その後、12歳のマークに対して、イメージの中で溢れる素直な愛情を表現し、イライラせずに安定した心で日々子どもに接している自分をイメージしていきました。その時貴子さんの口から出た言葉は「バートはバートのままでいい、バートのままがいい」。そう言いながら大粒の涙を流しました。(続く)
ヒプノセラピスト・エッセイスト・女優
宮崎 ますみ(みやざき ますみ)
1968年愛知県生まれ。1984年クラリオンガールに選ばれ、女優として、舞台・映画・TVなど幅広く活躍。1995年結婚を機に渡米。米国で2児の息子を育てながらYOGAに傾倒し自己探求に専念。瞑想を深めていくなかで自己の本質に目覚め、ヒーリングとリーディングを始める。帰国後2005年、乳がんであることを公表。克服後2007年ヒプノセラピストに。同年11月厚生労働大臣より「健康大使」を任命される。自身の経験を活かした講演会活動やヒプノセラピスト養成に取り組んでいる。
ヒプノウーマンSalon『聖母の祈り』 http://salon.hypnowoman.jp
一般社団法人ホールライフクリエーション http://wholelifecreation.com
日本ヒプノセラピーアカデミー・イシス http://jhtaisis.net
日本ヒプノ赤ちゃん協会 http://hypnoakachan.com