私の住んでいたイトクロというモザンビーク北部ナンプーラ県の地域には、ペドラ・サンタ(聖なる石)という聖地があります。名前の通り、神聖なる石が祀られています。誰にとっての聖地かというと、それは呪術や薬草などで病気を治したりする伝統治療者。なんでもこの聖地にはモザンビーク中の伝統治療者が集うそうです。もちろん旅行ガイド本にも載っていない穴場スポットです。
人里離れた奥地にあり、うっそうと茂った森の中に大きな岩の山がそびえ立っています。その前は小さな広場になっていて、そこで伝統治療者たちが儀式を行ったりします。私が訪れた時もちょうど伝統治療者にとっての特別な期間だったようで、たくさんの伝統治療者たちがそれぞれの衣装を身にまとい、音楽や踊りによる儀式を行っていました。
私の友人がカメラを取り出し撮影すると、すかさず撮影を制する声。
「ここは神聖な場所だから何も写らない。写真は撮るな。」そのため画像の記録が手元に残っていませんが、鮮明に記憶に残っているのは日本のお祭りに似た雰囲気。白いテントがいくつも張り出され、さまざまな形をした鉾のようなものが立っています。ジャンベというアフリカ独特の太鼓のリズムに合わせて踊り歌う人々。日常とはかけ離れた異質な雰囲気の中に感じる親近感。
そこには自然の大いなる力を崇め奉る人々の姿がありました。文化も価値観もまったく異なる人々を目の前に、親近感を覚えるのはなぜだろうと不思議な気持ちでいっぱいでしたが、今振り返ると自然の力を前に私たち人は平等であり、感謝と畏怖の念を示すという行為はどの文化でも本質的に共通しているからだと思います。
ペドラ・サンタを囲む人々に触れることで、日本の文化を改めて振り返るよいきっかけとなりました。みなさんも、身近な文化や習慣に目を向けてみてください。きっと何かしら自然とつながっているのではないでしょうか。