想像してください。あなたは病気です。交通の便がほぼない田舎にいます。病院に行くための交通費が払えず、徒歩数時間かけて別の村にある小さな診療所に到達します。診療所には多くの人がぐったりと座り込んでいます。さぁやっとあなたの番です。診察室に入るとそこには聴診器を持った看護師と助手が一人ずついるだけで、医者はいません。ぐるりと部屋を見回すと薬が散乱した机と小さな診察台があり、薬棚も機器類も何もありません。そこで診断結果とともに「薬はありません。」と告げられます。もちろん村々に薬局はなく、大きな病院や薬局のある町に出るには、生活費を圧迫する運賃を払って1時間ほどバスに揺られなければなりません。あなたはしぶしぶ徒歩数時間の帰路につきます…。
これは私がモザンビークの農村部にいたときに目の当たりにした現状のひとつです。診療所に行っては薬がなかったと手ぶらで帰ってくる人々にたくさん出会いました。人々も即効性のある現代薬に依存していて医療不足の現状に翻弄されるがまま。あってはならない現実を目の当たりにして行き場のない憤りを感じました。衣食住、医療や教育…人々が安心して生活を送るための最低必要条件を万人が平等に受けられる世の中にしたい、といつも強く思います。
そんな折、私はこの医療改善に取り組む一人のドイツ人の看護師に出会いました。彼女は自然療法の診療所を現地モザンビーク人と共に広める活動をしていました。身近で摂れる植物と材料で薬をつくり、その作り方の訓練も行っていました。
ただ単に物資を与えるだけではなく、人々に生きる力や術を与える彼女の活動は大きくはありません。しかし、その地道な活動と自然療法の可能性の大きさはこの国の医療や人々の意識を変え、ひいては世界を変えると確信しました。