東南アジアは米食文化圏として知られており、日本人にとっては地元のレストランなどでも抵抗なく入りやすく旅行しやすい地域と言えます。ラオスも同じ米食ではありますが近隣国と異なる点があります。ラオスの米は二種類に分かれ、カオチャオとカオニャオと呼ばれます。前者はいわゆるうるち米で、タイやベトナムで食べられているものであり、チャーハンにしたり、汁物のおかずをかけて食べたりします。後者はもち米で、ラオス人の主食となっています。これは世界でも珍しい部類に入るそうです。
ラオスの家庭にはどこにでも、七輪と竹製の専用蒸し器があります。毎日の晩ご飯が終わると翌日のご飯の支度が始まります。まずもち米をたらいで量り(一合、二合ではなく、たらいで一杯、二杯です。)流水で洗って水につけ、一晩放置します。翌日早朝から炭火をおこし、蒸し器に米を流し込み、強火で一気に30分程度蒸し上げます。途中でひっくり返すのを忘れてはいけません。蒸し上がったもち米は竹製のおひつに移され、食卓に並びます。水分が飛んで硬くならないようにふたがついており、内部に布が敷いてあるものもあります。
特徴的なのはその食べ方です。熱々の状態ではなく、やや冷めてきたころに片方の手で適量とり、軽く握って固めます。そしてもう片方で一口大にちぎっておかずをつけて食べるのです。おかずをつける際は、もち米にややくぼみをつけて、そこにおかずを載せるようにして口に放り込みます。ラオス人は器用に行いますが、慣れるまではおかずをぼろぼろこぼしてしまって至難の業です。また、もち米と一緒に必ず食卓に並ぶものが、チェオと呼ばれるもので、もち米につけて食べるタレのようなものです。醤油に唐辛子をつけただけのシンプルなものから、各種野菜をたたきつぶして作った味わい深いものまで、各家庭によって様々なチェオがあります。日本人にとっての「白ご飯と梅干し」のように、「もち米とチェオ」はラオスの食文化の根源と言える存在です。その他にも代表的なおかずとして、ラープと呼ばれる挽肉と香り野菜の和え物、筍の濃厚辛味スープ、そして青パパイヤのサラダなど、スパイシーかつ食欲をそそるものばかりで、もち米がぱくぱく口に入ってしまいます。気がついたらお腹いっぱいで、横になって一眠りしたくなるラオス人たちの気持ちがよくわかります。
山間部では水稲栽培でも焼き畑でももち米が作られており、どんな田舎町でも毎日食べるおひついっぱいのもち米だけは欠かしません。貧しい地域では満足なおかずも食べられず、唐辛子のチェオや野草のスープなどで暮らしている人々もまだまだ多いのが現状です。しかしながら、もち米が胃の中でゆっくりと消化・吸収されるように、悠久の昔からの時間や歴史の流れは、発展しつつある都市部でもいまだに変わらなく続いているのです。
駒崎 奉子
駒崎 奉子氏 ラオス・ビエンチャン在住3年。大学卒業後、日本での社会人経験を経てラオスへ渡り、日本語教師をつとめる。現在は日本人学校で教える傍ら、ラオス語翻訳や文筆活動も積極的に手がけている。 「こまごめ」は大学時代に名字からつけられたあだ名。 |