ラオス人はよく冗談で、「1年に3回、正月がある。」と言います。1つ目は西暦の正月である1月1日。以前はまったく静かなものだったのですが、観光客の増加に伴い、若者たちにとっては1つのイベントになってきています。2つ目は中国・韓国・ベトナムで祝われる旧暦の正月。華僑やベトナムの移民が多いラオスでは、家庭によっては重要な行事の一つです。そして数あるラオスの祭りの中でも一番にぎやかだと言われるのが、「ピーマイラオ」と呼ばれる仏暦の正月です。だいたい毎年4月の中旬の3日間、13日~15日、もしくは14日~16日頃にあたります。これは太陰暦に基づき、毎年変わります。
この祭りは「水かけ祭り」とも呼ばれていて、街中の人々が水をかけ合います。元々は仏像に水をかけるお清めの儀式から始まったのですが、現在では年に一度の無礼講の場となり、おとなしいラオス人のはじけた一面が見られます。正月の数日前から街の人はそわそわし始め、道ばたには水鉄砲を構えた子どもが現れます。家の前に水の入ったバケツを置き、桶で前を通る車やバイクに水をかける若者たち、そして仲間内でずぶ濡れになって歌って踊る人々が出てくるのはまだまだ前夜祭です。祭り本番ともなれば、家の前では飽きたらず、車の荷台に水の樽を載せ街中に水を振りまきながら、文字通り街中が水浸しになるまでかけ合います。メコン川の中州にも大勢の人が詰めかけ、水をかけ合うだけでなく小麦粉を塗り合ったり、ペインティングをし合ったり、とにかくにぎやかで、普段は静かなビエンチャンの町が嘘のようです。
一方、ラオスの北方にある古都ルアンパバーンでは、仏教色の強い行事がいくつも行われます。まず大規模な托鉢です。仏教寺院がひしめくこの町では朝の僧侶による托鉢が有名ですが、正月ともなればいっそう盛大になります。荘厳な静けさの中に列をなすオレンジ色の袈裟の影と敬虔な仏教徒の姿は、ラオス人の原点とも言える風景です。また寺院へ赴き、仏像を清めるという元来の儀式も行われます。ラオス人に言わせると「なるべく多くの寺院へ行くほうがよい。」とのこと。正月明けにはいくつのお寺を回ったかということが話題になるそうで、日本人とは考え方が違うようです。(日本の場合、神社への参拝など、あまり多くの場所へ行くのはよくないとされますよね。)
ラオス中で一番華やかだとされるパレードもここルアンパバーンで行われ、ラオス創始の神と言われる夫婦プーニュー・ニャーニューが街を練り歩きます。プーニュー・ニャーニューとは、秋田県のなまはげに似た愛らしい顔立ちをした神様で、2人の子と伝えられる獅子舞に似た神様も一緒にいます。またラオス人たちが一番気になるのはミス・ルアンパバーンコンテストで、この優勝者も一緒にパレードに参加します。街の人たちは沿道から神様に水をかけたり、後方に連なって一緒に練り歩き、最終地点のお寺を目指します。
その他、地方から街へ出ている人々は実家へ帰って家族との憩いのひとときを過ごし、正月明けには満員のバスに揺られ、街へ戻ります。そして新たな気持ちで一年を始めるのです。
駒崎 奉子
駒崎 奉子氏 ラオス・ビエンチャン在住3年。大学卒業後、日本での社会人経験を経てラオスへ渡り、日本語教師をつとめる。現在は日本人学校で教える傍ら、ラオス語翻訳や文筆活動も積極的に手がけている。 「こまごめ」は大学時代に名字からつけられたあだ名。 |