「声が通らない」「気づいてもらえない」「聞き返される」といった声の悩みを抱える方は少なくありません。多くは、自分の声質や発声、滑舌に問題があると考え、「声が小さい、こもっている」「腹式呼吸ができない」「滑舌が悪い」などの自己診断をよく耳にします。しかし、名俳優と呼ばれる人たちでも、ボソボソ話す方も多くいます。高倉健さんは「どんなに大声を出しても伝わらないものは伝わらない」という言葉を残しています。
そこで、こうした悩みの解決にご提案したいのが、「存在感」に着目することです。なぜなら、こうした悩みの多くは、声や喋り方の問題ではなく、本質的にその人の「存在感」が密接に関わっているからです。
存在感とはなにか?
存在感とは、「その人がそこにいることを相手に実感させる力」といえます。では、声が大きい人や体格が良い人は存在感が強いのでしょうか? しかし、小柄な人や物静かな人でも強く印象に残る存在感を持つ人がいます。その違いは、意識の使い方にあるのです。
存在感がある人は、自分が伝えたい相手に意識をしっかり向けています。例えば、1対1の対話なら目の前の相手に、少し遠い場所にいる人ならその人に、100人に話すならその100人にしっかり意識を向けています。こうして繋がりをつくってから声を出すので、相手に伝わり、影響力が発揮されます。
あなたの存在感をチェックしてみませんか。賑やかな居酒屋で、離れた場所にいるウェイターさんに「すみませ~ん」と声をかける場面です。あなたの状態に近いものを選んでください。
①あなたの意識はどこに向いている?
A・気づいてほしいウェイターさん
B・周りのお客さん
C・自分
②どんなことを考えている?
A・無心、気づいてもらうことに集中
B・周りの邪魔にならない声を出そう
C・気づくかな、恥ずかしいな
③身体の反応は?
A・自然体、ウェイターを見ている
B・ソワソワ、目線はキョロキョロ
C・緊張気味、伏し目がち
Aが多い方は、相手にしっかり意識を向けているので、相手に気づいてもらいやすいでしょう。Bが多い方は、意識がウェイターよりも周囲に分散しているので、存在感が伝わりにくいかもしれません。Cが多い方は意識の矢印が自分に向いています。そのため、日ごろ「気づいてもらえない」「伝わらない」と感じているかもしれません。
存在感を高める方法
存在感を高めるためには、相手に意識を向けることが大切で、その際、自分の身体の反応も観察しましょう。緊張による身体のこわばりや、目を合わせず他所を見ていると、声は届きにくくなります。また、感情も大きく影響します。緊張や不安があると声は通りにくく、イライラを抑制すると、抑揚のない声になり伝わりにくくなります。
存在感を高めるための簡単なエクササイズとして、相手に話しかける前に、①相手に意識を向ける、②深呼吸で心を落ち着けることをお勧めします。緊張やイライラが落ち着くまで深呼吸を続けると効果的です。私のクライアントのお一人がこの方法を実践し、大きな変化を感じました。以前は会議で発言しても聞いてもらえないと悩んでいましたが、意識の使い方を変えることで、今では自信を持って意見を述べ、周りの反応も良くなったそうです。
「声が通らない」「気づいてもらえない」という悩みの本質は、声の問題だけでは解決できません。重要なのは、自分の存在感を高めることです。意識を相手に向け、身体の反応や感情を整えることで、声は自然と相手に届くようになります。日常のコミュニケーションに取り入れてみてくださいね。