「お米、ないの?」スーパーの米棚が空になり、買い物客がざわつく光景がニュースになりました。でも、それは、「突然」の出来事ではありません。実は、統計はずっと警告してきたのです。
私たちの国、日本の米農家の平均年齢は70歳を超え、時給にすると10~60円。この10年で米農家の数は4割近く減り、田んぼも年々姿を消しています。数字が語る未来図に、私たちが目を向けてこなかっただけ。そう考えると、胸がキュッと痛みます。
さらに、耕作放棄地が増えたことで、イノシシやクマなどが市街地へ降りてくる被害も各地で深刻化。田んぼや畑は食料庫であると同時に、自然との緩衝帯でもあったのだと気づかされます。
見ない、知らない、変わらない
どんな問題も、現実を「事実」として認識しない限り、根本的な改善にはつながりません。だけど、私たちは、つい見て見ぬふりをしてしまいがち。
たとえば、財布にレシートを貯めたまま、家計簿をつけない。減量したいと思いながら、体重計を避けて通る。「忙しいから、いまは無理」と歯の治療を先送りし、ようやく行った歯医者で「もう抜くしかないですね」と言われてインプラントに……。
これでは現実は変わらず、モヤモヤが残るばかり。どれも、事実を見ないことにし続けた結末なのです。
改善力は、まず事実を知ることから始まります。ここで言う「事実」とは、数字や、目に見えたこと「そのまま」です。たとえば、「太った気がする」ではなく「体重が〇kg」、「お金がない」ではなく「今月の残額は〇万円」など、解釈を交えず、そのままを淡々と書くのがポイントです。
すると、ぼんやりした不安が、明確な「課題」へと変わります。その瞬間、脳が解決モードに入り、「では、どうする?」と自然に行動案が浮かんでくるようになるからです。事実と向き合うこと。そこから改善は始まります。
事実だけでも、変わらない?
でも、ここで大切なポイントがあります。それは、「知っただけ」では、人はなかなか動けないということ。事実を知っても、危機感は自然には生まれません。「このままではよくない」と思っていても、感覚を閉ざし、現実を遠ざけてしまうことがあるからです。心理学ではこれを「自己欺瞞」と呼んだりします。
もしあなたが目の前の現実を変えたいならば、次の3つのステップ、なかでも2つ目のステップを大事にしてみてください。
1、「見る」。感情・解釈をまじえず、事実をあるがままに見る。
2、「感じきる」。その事実がもたらす感覚を身体でただ感じる。焦り、不安、悔しさなどの不快感であっても、いずれ和らぎます。
3、「湧き上がる」。ここまでくると、改善のためのアイデアや行動が、自分のなかから自然と浮かんできます。身体や脳のスイッチが入る感覚です。
この3つの流れは、人間国宝・坂東玉三郎さんの演技論「感受・浸透・反応」とも重なるものがあると、私は感じています。芸を極める道と、現実を変える力。根っこでは、同じ構造なのかもしれません。
この3ステップは、紙に書き出すだけで、意外と簡単に体験できます。まずは、数字や、見たまま・聞いたままの事実を10個ほど書き出し、可視化します。次に、感じ取った感覚や感情を事実の隣に書き足します。「重たい」「ショックだ」「このままはイヤだ」など。そして最後に、ふっと浮かんだ行動案を、その隣にメモします。
不快感は、身体からの小さなSOS。そこに改善の芽が眠っています。最初はちょっと苦しくても、事実を見て、感じきることができれば、自然と動き出したくなる自分に出会えますよ。