私がふとしたときに思い出す童話があります。『みちこさん』です。『手袋を買いに』『ごんぎつね』の作品で知られる、新美南吉の童話です。小さな頃、母にたくさん読み聞かせてもらっていた童話の一つです。
話の内容は、“みちこさんが、偶然通りかかった赤ちゃん連れのお母さんに、お母さんが乳母車を整理する間赤ちゃんを抱かせてもらいます。みちこさんは、赤ちゃんににっこりと微笑まれかわいいなと思い、赤ちゃんを返した後も赤ちゃんを抱いていた手つきでお家に帰った”という短いお話です。そのお話の中で、みちこさんが家に帰り、みちこさんのお母さんに「あんまり、かわいかったので、まだ抱っこしているつもりでかえってきたのよ。お母さん、ほら、お乳の匂いがしているわ。」という一節があります。初めてこのお話を読んだ時から、みちこさんのこの言葉が大好きです。読むたびに、お乳の匂いがふわ~っと私の胸から立ちのぼり、赤ちゃんの微笑む顔が浮かび、やさしく幸せな気持でいっぱいになるのです。「お乳の匂い=幸せ」と、みちこさんによって私はつくられました。
ですから、私が出産をし、息子を授乳で胸に抱いていたときは、この幸せ感に浸りきっていました。そんな息子も、今ではすっかりおっぱいを卒業し、やんちゃに飛び回るようになりました。どんどんと成長してゆくのがうれしい反面、赤ちゃんの頃が懐かしく、時々あの独特のお乳の匂いで包まれたくなります。すると、その願いが通じたのか、なんとプレマに年末年始にかけて2人の赤ちゃんが誕生することになりました。スタッフが立て続けに妊娠したのです。こんなうれしいことはありません。来年、またお乳の匂いで包まれることができます。赤ちゃんのお乳の匂いは、私にとって幸せの象徴です。