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カンボジア地雷除去支援

江角泰 (えずみ たい)

NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。
大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。
現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。

【Vol.35】地雷被害者の恋 ~幸福の尺度~

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 今回は、特定非営利活動法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事務所で雇っている地雷被害者の女性スタッフ、サムリット・ラウの話です。

 ラウについては、以前ご紹介したことがありますので、覚えている方もいらっしゃると思います。2009年4月に雇われた当初、彼女はクメール語の読み書きもおぼつかなかったため、事務所にて3か月間の基礎教育を受けました。その後の経過をお知らせしたいと思います。

 ラウは、地雷被害者をサポートしている別のNGOの職業訓練で、裁縫技術を勉強したことがありましたが、訓練後、家でその技術を使うことができずにいました。そこで、テラ・ルネッサンスで裁縫技術トレーナーとして働いてもらうために、再度、裁縫技術を勉強しなおしてもらいました。その後、2009年12月からは、タイとの国境に近いバッタンバン州のオッチョンボック村に滞在し、最貧困層の若い女性たちに裁縫技術を教えています。

 そのラウが、2010年3月に結婚しました。しかし、彼女の結婚は、皆から素直に祝福されたものではありませんでした。女性の地雷被害者の結婚が難しいことは、もう一人の女性スタッフ、イェトの半生を聞いたときから実感していました。

 イェトの話も以前ご紹介したことがありますので、ここでは簡単に書きます。イェトは、14歳のときに地雷を踏み、片足を失いました。結婚はもうできないと思っていたので、村の離婚した夫婦の引き取り手がなかった赤ん坊を養子にしました。しかし、イェトはその後2回結婚し、2回とも離婚しました。離婚の原因は、地雷被害者であったことが大きいようです。

 ラウは、今年31歳。カンボジアの女性は、昔は15~16歳で結婚するのが普通で、20歳を超えると晩婚と言われました。今ではかなり結婚観も変わってきていますが、30歳は女性にしては遅い結婚です。でも年齢はそれほど問題ではありません。私も含めて、現地スタッフ、そして彼女の両親も結婚に反対した理由は、結婚する相手にありました。テラ・ルネッサンスが雇用する以前からラウは、彼と付き合っていました。彼は、事務所にも何度か来たことがありましたが、仕事がなく収入もないために、親戚の家を転々としていて、親はもう彼を見放していました。その上、なぜか現地スタッフにありもしないウソをつくこともあったため、2度の離婚経験のあるイェトも含めて他のスタッフたちも皆、ラウに彼と付き合うのをやめるようにアドバイスしていました。しかし、周囲が反対すると、一層恋は燃え上がるもの。ラウは、完全に恋に落ちていました。シェイクスピアの、?恋は盲目?という言葉がぴったりの状態です。ラウは、現地スタッフの言うことを全く信じなくなっていました。

 今年3月14日、ラウは結婚式を挙げました。カンボジアでは、結納金は男性側が女性側に支払うのが一般的です。男性はお金がないと結婚できない、モテナイ社会です。ただし、例外もあって、よほど女性側の両親が、その男性と結婚させたかった場合は、女性側の家族がお金を工面することもあります。ラウの場合、両親は決して賛成ではなかったものの、「結婚するなら娘の花婿がどんな男性か、村の人たちにしっかりと知ってもらう」というお父さんの意向で、結婚披露宴のためにラウの家族が借金をしました。

 こうしてラウとその旦那は、オッチョンボック村に、2人で住むようになりました。旦那は相変わらず仕事もなく、家で家事をしており、2人はラウの給料による収入でなんとか生活している状況です。すでにラウは妊娠しており、今年中には子どもが生まれる予定です。幸福そうな2人ですが、周囲はまだ不安です。男性が家事をして、女性が働きに出る、そういう家庭もカンボジアでも認められていいとは思いますが、過去の言動からも、旦那がただ単に楽をしているようにしか周囲からは見えないのです。余計な心配かもしれませんが……。

 ただ、ラウの最近の幸福そうな様子を見ると、周りがいくら反対しようと、本人が幸せであればいいのかなと思います。幸福の尺度は、結局その人がどう感じるかですから。

 高収入で社会的に認められた男性と結婚すれば幸せになれると思われがちですが、決してそうとはいえないことも多いのです。豊かでお金があっても幸せでない人は、日本にもたくさんいるのではないでしょうか?ラウには、いろいろ困難はあると思いますが、結婚して良かったと思える結婚生活を送ってほしいと願い、見守っていきたいと思います。


江角泰(えずみ たい)

江角泰(えずみ たい)氏
NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。
大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。
現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。

- カンボジア地雷除去支援 - 2010年7月発刊 Vol.35

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