雪国に暮らす人にとって春はなんともいえないうれしい季節です。ただなんとなく春になる。暖かくなって季節の移り変わりを肌で感じるだけでなく、積もりに積もった雪が目に見えてみるみる消え、雪の合間から水仙の芽を見つけたときの感動といったらありません。視覚的な春の訪れは、雪国に住む醍醐味です。春はまだか、もうそろそろ庭の水仙の芽が出ているのでは、と子どものころは予感がすると庭に出て水仙の芽を探したものです。
春分には、私の住む会津では春の行事、春を祝うお祭りがあります。それを見ながらここに住む人は農作物の準備や春の支度をしていったのでしょう。四季の移り変わりで節目のある日本は、自然と一体でものごとを進める民族といえると思います。
イタリアは宗教と行事が一体
一方、イタリアの春と言えばイースターです。キリストの復活を祝う行事で一色になります。イースター休暇があり街は復活の印である卵に絵を描き飾ったり、卵にまつわるお菓子がお目見えしたりするなど、ユニークな盛り上がりはクリスマスに次ぐ重要な行事です。このようにクリスマスや聖母マリアにまつわる祝日など、宗教と年中行事が一体化した国といえます。
お祝いは、おいしいご馳走を食べる、ということでもあり家族全員が揃って、お母さんの作る料理を楽しむということ。近年はレストランに繰り出す人も多くなり、お祝い=ご馳走を食べる、と大勢でご飯を食べながら祝うのがイタリアの定番です。料理はもちろん、各地ならではのこの時期だけのお菓子を味わうことができます。お祝い事にちなんだそれぞれの料理やお菓子があるなんて、本当にイタリア人は食道楽、食いしん坊なんだなあと思います。
ラードを使ったお菓子?
甘いものが好きなイタリア人。大人も、特に男性も、お菓子には目がありません。お菓子にはつきものの油脂については各地の気候風土に合ったものが使われ、北部と南部では全く異なります。北部は酪農が盛んですからバターたっぷり系。中部以南になるとオリーブオイルを使ったお菓子もあります。また年中暖かい南部では、豚の油脂ラードをふんだんに使うレシピもあり驚きました。しかし、これが意外においしいのです。南部の古典郷土菓子はほとんどがラードを使っているのが特徴です。常温で液状でない油脂は、お菓子作りには便利なのでしょう。油脂と料理は古くから密接に関係していると、古典料理のレシピをみて思います。
昔は貴重だった油脂としてのラードやバター、そしてオリーブオイル。重要な年中行事の大事なお祝いの食卓には欠かせないものだったのでしょう。ハレの日に貴重な油脂をたっぷり使い、手作りのご馳走を楽しむ。お祝いの日が来るのを指折り数えて待つ人々がいたのでしょう。これは日本もイタリアも同じですね。本来、ご馳走をいただくということは、そういうことなんだと思います。
豊かになった現代。ご馳走の意味がだんだん変わってきていますが、人が誰かを思い、素材を集め愛情をこめて作るごはんは、おいしいに決まっています。
今年のイースターは、四月の第一日曜日。春の訪れを喜び、食卓を囲んで笑顔いっぱいのイタリアの人々の顔が浮かびます。