先月に続いて3回目。
グルテンが悪、小麦が悪という風潮の奥にあるものを、多くの方に知っていただきたいと思います。
今回が最終回です。
世界中で需要が増え 栽培から収穫後まで薬剤づけに
今から40年ほど前に朝日新聞の連載として発表された有吉佐和子さんの長編小説『複合汚染』をお読みになった方も多いかと思います。
私は20年ほど前に読み、著者の感性の鋭さを感じました。
小麦原料のイタリアのパスタを扱って12年が経ち、小麦製品を食べられない人がごまんといるイタリア人を見て、今だからこそ、この本を思い出すのです。
著者は取材旅行で長期に家を空けた際、自宅の米びつの中のことが気になります。
コクゾウムシが大量発生しているだろうと懸念していたのに、帰宅してみると一匹もいないことに愕然とします。
なぜ虫がわかないのか?
これを機に農業の実態、食品添加物、環境汚染を調査し、体験から社会の現状をあぶり出したのが『複合汚染』です。
これが社会現象となり、昭和30年以降、自然食品という概念や自然食品店が広まります。
農作物の栽培時にかける農薬や除草剤が及ぼす影響、合成洗剤による河川・海へ及ぼす影響がリアルに描写されている衝撃の一冊です。
農業に関していえば、病気や害虫、収穫後の劣化や虫の発生を抑えるために、栽培から収穫後、消費者の手に渡るまでに、さまざまな薬品が使用されます。
この現実は小麦もまったく同じです。
特にパスタ用の小麦に関していえば、イタリアで加工されたものが世界中に輸出されるのですが、世界中の分の小麦をイタリア国内で栽培できるはずもなく、輸入に頼っています。
世界中に届く過程で、劣化や虫の被害から守るために相当の薬品が使われているのは多くの人が知らない現実です。
薬品漬けといっても過言ではない小麦を食べ続ければ、人体に影響があるのは想像できると思います。
イタリア国内でも、小麦の薬品の問題が、小麦アレルギーの増大で注目されつつあり、特に輸入小麦の栽培時の強力な除草剤使用について、やっとマスコミなども取り上げ問題提起されつつあります。
とはいえ、自分が食べる食品の原料に気をつけたくても、パッケージの表記から判断することはできません。
そのため消費者は原料の由来が全くわからない状況で食べざるを得ません。
パッケージに頼れないからこそ、原料由来のわかる真っ当なものを食べ、そうでないものを見極められるようになるのが、一番の近道なのかもしれません。
パスタならば茹でている際の湯気によって咳が出るなど、匂いや汁の味など調理中の現象や、食べることで食品自身が教えてくれることもあります。
①行き過ぎた品種改良
②製粉・加工時の熱による成分変質
③薬品害
小麦問題はこの3つの複合汚染である。
12年パスタを扱い、そばで見てきてそう思います。
しかし、小麦は、数千年、人の命を支えてきた貴重な食材であるということも忘れてはいけません。
本来小麦で作るべきパン、麺類、焼き菓子は代用原料ではこのおいしさは出しにくいものです。
小麦で作る味わいにはかなわないのです。
小麦が享受してくれるものを尊重し、小麦の身になり、作ってくれる生産者に感謝することを忘れないでいたいものです。
そして、食べる人は正しい知識と判断をもって行動してほしいと願います。