昨年、2025年の大阪万博の開催が決定しました。誘致に賛否ありましたが、決まったからには2020年の東京五輪と共に世界に誇れるイベントになってほしいと思います。
今号はもう一つの2025年問題についてお話しします。2025年問題とは、1949~1974年の「第1次ベビーブーム」で生まれた「団塊の世代」が75歳以上となる2025年頃に起こる、さまざまな問題のことです。日本はすでに超高齢化時代に突入していますが、2025年には国民の5人に1人が75歳以上になるといわれています。納税や介護をする側だった世代が一気に医療や介護を受ける側に回り、支える側の生産年齢人口(15~64歳)は減少します。政府は社会保障や雇用制度の見直しをおこなっていますが、間に合っていない印象は否めません。認知症に注目すると、2025年には高齢者の5人に1人が認知症を発症するとの厚生労働省の試算があります。
超認知症社会
高齢者の5人に1人が認知症の「超認知症社会」では、認知症患者さんと一般の人たちとのトラブルが懸念されます。お年寄りに悪意はなくても、私たちの日常が脅かされることが多かれ少なかれ起きると思います。今でも、暴力やご近所トラブル、高齢者ドライバーによる悲惨な事故などには、認知症が関係していることが相当数あるのではないでしょうか。認知症は当人や家族だけの問題ではなくなるのです。
そもそも認知症はいつからこんなに深刻な問題になったのでしょうか。核家族化が進むなかで、独居の高齢者が増加しました。独居高齢者は犯罪の被害に遭いやすく、訪ねて来る人やかかってくる電話には警戒が必要で、鍵のかかった部屋で一日の大半を一人で過ごさざるを得ません。その結果、昔のように誰とでも気軽にコミュニケーションを取れなくなってしまいました。家族やご近所が見守るなかでは「同じ話を何度もするおばあちゃん」で済んでいたお年寄りの多くが、認知症となってしまうとしたらとても切ない話です。
激変した生活環境
万博に話を戻します。1970年に開催された大阪万博の頃から私たちの生活は激変しました。日本で初めてカップ麺が発売されたのが1971年。マーガリンや電子レンジが発売され急速に浸透したのも万博の前後10年ほどのことです。ファストフードや市販の総菜、信じられないほど多くの添加物が原材料に列挙されたインスタント食品を利用することが当たり前になり、精製された油や砂糖、粉がキッチンに並びました。2025年頃に高齢者になる方たちは、マーガリンやサラダ油が「植物性だから体に良い」と刷り込まれ、長く摂取し続けた世代でもあります。そして何と言ってもこの50年ほどで肉食を中心とした飽食がすっかり定着しました。家族の在り方もそうですが、これら食習慣の変化が認知症の増加と無関係とは思えません。
「治療」より「予防」
これまで食生活を軸とした生活習慣を見直すことで、癌や生活習慣の予防・治療が可能になることを繰り返しお話ししてきましたが、認知症も同様です。発症してから薬で「治療」することがご本人やご家族にとって最善でしょうか?
認知症患者さんが増加すると介護職従事者の方の負担も大きくなり、さらなる人材不足を招くかもしれません。認知症患者さんは一気にすべてを忘れてしまうのではなく、できなくなることに苛立ち、自分が壊れていくのではないかという不安と戦っておられるはずです。年長者に対する尊敬の念を忘れるわけにはいきません。
今、(食)生活習慣を見直し「予防」することと真剣に向き合わなければ、私たちの負担は増加し、お年寄りの尊厳を損なうことになりかねません。